「デフレ」という言葉が論者によって異なる意味で使われることが、経済政策に関する論争の混乱を拡大させていることは、本欄でも何度か述べたが、どの定義でも共通するのは物価が持続的に下落するということだ。1990年代末頃からの物価の持続的下落が日本経済低迷の原因だとする見方の中には、物価の下落によって家計が消費を先送りするというメカニズムを強調するものがある。
家計は需要不足の主犯か?
以下はたまたまネットを検索して出てきたものだが、「平成15年版労働経済の分析」(通称「労働経済白書」、厚生労働省)では、「物価が下落と回答した世帯ほど支出を削減している世帯の割合が高くなっており、デフレは消費抑制的という結果となっている」と述べている。
興味深いのは白書が結論の根拠として示しているグラフ(同白書の第21図「物価下落に対する意識と支出削減割合」 )では、物価が上昇していると認識している家計も消費を抑制していることだ。白書は、物価の下落期待によって消費が先送りされるというメカニズムだけを指摘しているが、正確に言えば、物価の上昇も下落も大幅になると消費には大きなマイナスになる、ということだろう。
物価下落によって大規模な消費の先送りが発生していたのであれば、日本の家計の貯蓄率が上昇していそうなものだが、1994年度の11.8%から2013年度のマイナス1.3%まで貯蓄率は大きく低下してきた。どう考えても1994年度から2013年度の間に、家計が賃金や年金などの形で受け取ったお金を消費に回さずに貯蓄してしまうという問題は小さくなっているはずで、とても家計の貯蓄が原因で日本経済が需要不足となって低迷を続けて来たようには見えない。
2013年度に貯蓄率が大きく低下したのは2014年度からの消費税率引き上げ前の駆け込み需要が発生したためと考えられる。消費税率引き上げによって2014年度に物価上昇率が高まることを予想した家計が消費を増やしたことになるが、毎年同じことを続けるわけには行かない。
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