神と人種 アメリカ政治を動かすもの マーク・A・ノール著/赤木昭夫訳 ~宗教と政治の根深い関係を解明
なぜアメリカでは建国以来、政府のあり方をめぐって思想的対立が続いているのだろうか。なぜ多くのアメリカ人が神を信じ、宗教が政治的にも、社会的にも大きな影響力を持っているのだろうか。そんな疑問を抱いた人は多いだろう。本書は、それに対する一つの答えである。
宗教的弾圧を逃れてアメリカにやってきたピルグリムたちは船上で「メイフラワー盟約」を結ぶ。その中でアメリカにやってきた目的を「神の栄光のため、キリスト教の信仰の促進のため」と書いている。建国の精神の底流には宗教的理念が存在している。やがて積極的な社会参加を主張するエバンジェリカル(福音主義)の影響を受けたカルビン派のプロテスタントが影響力を持つに至り、ユニークな“宗教的国家”が誕生する。
他方、独立戦争は欧州の専制君主体制をアンチテーゼに新しい政治組織を作る理念を持って戦われる。それは強大な中央政府を恐れ、小さな政府を主張するジェファーソンの連邦主義に反映され、独立戦争の基本理念となる。だが憲法会議でハミルトンは大きな政府を主張し、ジェファーソンに挑戦する。二人の論争は、リベラル派と保守派の対立という形を取って現在でも続いている。
著者は「アメリカの政治の多くは、何らかの形での白人の黒人に対する扱いの歴史であったし、人種差別の歴史の多くは、根底において宗教によって形成されてきた」と考える。さらに「南北戦争前のアメリカでの出来事が、その後のアメリカの歴史のすべてを決定した。それは宗教と政治と奴隷制と人種とが相互浸透的に結びついたからである」と指摘する。