『世界最高の話し方』著者がリーダー層に向けた「話す力」の特別講義。
リーダーシップに最も重要なのがコミュニケーション力であり、話す力だ。8万7000人を対象にした米国のある調査では、リーダーが信頼されるには3つの要素が必要とされる。
1つ目がポジティブな人間関係力、2つ目が実行力、3つ目が決断力。日本では決断してそれを実行すれば、リーダーとして信頼されるとの認識が多いが、実はポジティブな人間関係構築力がまず大切だ。これがなければ信頼は築けないし、リーダーシップも発揮できない。
リーダーの第一条件はコミュニケーション力
ポジティブな人間関係構築力とは、相手とつながること。重要なのが共感だ。相手の感情に寄り添う。とくにネガティブな感情に寄り添うことが必要。コロナ禍で不安や恐怖、孤独を感じている。その思いに寄り添って励まし、共感する力がまさに求められている。
ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相など、女性リーダーの評価が高まっているのはそういった共感力の高さからだ。女性はひたすら感情のキャッチボールをしている。
伝える止まりではダメ
一方、男性はあまり感情と向き合うことをしないので、感情の言語化を苦手とする人が少なくない。菅首相も同様で、記者会見などの言葉が伝わらないのはそのためだ。感情と向き合わないのは世界的に男性に共通しているが、欧米の男性は伝える力、言語化する力を絶えず鍛えている。欧米のビジネスパーソンは会社帰りに、ストーリーテリング(物語を伝える)、即興劇、ボイストレーニングなどのワークショップに参加している。
そこまでこだわるのは、コミュニケーション力がなければ、ビジネスの世界で成功しないのがわかっているからだ。このため、教えるメソッドがあるし、研究機関も多い。コミュニケーションは、アートのように人を動かし、サイエンスのごとく方程式がある。
スピーチ&プレゼン|2時間で劇的に変わる「話し方」
コミュニケーションには3つの段階があると考えている。それが、伝える→伝わる→つながる。
多くのリーダーは最初の「伝える」止まりで終わってしまっている。伝わって、つながって、共感しないと相手は動かない。結果的にリーダーシップを発揮できない。
「伝える」はボールを一方的に投げるだけ。「伝わる」はボールを受け取ってくれるまで。「つながる」は相手からボールが投げ返され、ここで共感が生まれる。日本人経営者は「言えばわかる」との幻想を、早急に払拭すべきだ。
ただ、コミュニケーション力は生まれつきの能力ではなく、9割は慣れと場数で改善できる。コミュニケーションを鍛えていくのは知識よりは体、筋トレに似ている。
自分流でやると、変なところに筋肉がついてしまう。正しい型を覚えれば、実は1~2時間のトレーニングで変貌する。日本人経営者の場合、いわば、小さいガラス瓶に閉じ込められているような人が多い。そこからいったん出てもらうことが肝要だ。
例えば、スピーチ冒頭のあいさつ部分で、へりくだる言い方が日本人経営者には多い。「本日は5Gの未来についてご説明させていただきたいと思います。ぜひ最後までお聞きいただければ幸いでございます」といった調子だ。これを聞いた途端、「この人の話はつまらない」と思われてしまう。
こういった場合は、「本日は5Gの未来についてご紹介します。皆さん、5Gの未来を考えたことはありますか」と話せばいい。自分の小さなガラス瓶から出て相手に近づく勇気を持ってほしい。言葉の“過剰包装”を一度ほどいて、生身の言葉でぶつからないと、化学反応は起こらない。少し表現を変えたり、声量を変えたりするだけで躍動感が生まれ、たちまちガラス瓶は割れる。
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