稲森和夫、秋元康、為末大…。3000人超の取材を通じ筆者が聞き出した14人の「パワーフレーズ」。
『苦労や試練に直面したときは、自分は幸運だ、と思えばいい。』
── 稲盛和夫 京セラ名誉会長
苦労の連続だった。中学受験に失敗、結核を患い、空襲によってすべてを失い、大学卒業後も不況で就職すらままならなかった。入った会社はたいへんなボロ会社。赤字、労働争議は頻発、給与は遅配。同期は次々に辞めていった。しかし、世間を恨んでいても仕方がない、と稲盛さんは未来を信じて仕事に打ち込んだ。すると、すばらしい実験結果が出た。
「人生の命運を分けたのは、運不運ではなく、心の持ちようだったのです」
苦労があったからこそ、起業につながった。納得のいく人生を送ることができた。
「だから、試練に遭ったときには、むしろ幸運だと思ったらいいんです。その意味は年をとってから必ずわかります」
『トップは「真剣の勝負」であり、ナンバー2以下は「竹刀の勝負」である。』
── 古森重隆 富士フイルムホールディングス前会長兼CEO
社長に就任した2000年、業界1位のシェアを持っていた写真フィルム市場はピークを迎えた。その後は年率20〜30%の勢いで猛烈に収縮し、10年後には世界の総需要はかつての10分の1にまで落ち込んでしまう。売り上げの6割、利益の3分の2を占めていた市場のほとんどが消失したのだ。ところが、07年、史上最高の業績を記録する。
「私がよく話すのは、トップは『真剣の勝負』であり、ナンバー2以下は『竹刀の勝負』だということだ。真剣での勝負は、負けイコール死を意味する。失敗から学ぶ余裕すらない。経営トップは、自分が負けたら会社は負けなのだ。だから失敗は絶対に許されない。勝つ方法を必死で考える必要がある」
『止まっている時計は、日に二度合う。』
── 秋元 康 作詞家、プロデューサー
AKBグループの生みの親だが、かつて同じように女性グループをつくって大ヒットさせたことを記憶している人は多くない。おニャン子クラブである。秋元さんは、同じことをしてきただけなのだ。彼の好きな言葉に、「止まっている時計は、日に二度合う」がある。
例えば、前から延々とカスミソウだけを植えている人がいるとする。自分の姿勢を決して曲げない。でも、何年かに一度、カスミソウの大ブームが来て、この人は高い評価を受ける。
「一方、ただ流されて、ヒマワリだ、タンポポだと移ろう人もいる。こういう人は、永遠に時代から5分遅れで走り続ける。一度も時間は合わない。僕が今、就職先を選ぶとすれば、あえて最悪のところを狙うでしょうね」
『まさかがあるのが人生。自分の知らない自分は必ずいるんです。』
── 野村克也 元プロ野球監督
野球人生のスタートは、テスト生からだった。1年目が終わったとき、解雇通知を受けた。でも、可能性はゼロではないはずだと思った。合宿所の庭で誰かが200回素振りをしていたら、400回素振りをした。努力は天才に勝ると信じるしかなかった。
「何でもそうですが、基本がマスターできていないと、応用はできません」
努力が実を結び、少しずつ少しずつ、結果が出ていった。
「自分には自分の知らない自分がいる、という言葉を、私は野球を通して実感しました。まさかまさかの連続でしたから。でも、まさかがあるのが人生。自分の知らない自分は必ずいるんです」
『失敗というのは面白くて、学ぶことができるんです。』
── ジェームズ・ダイソン 英ダイソン創業者兼チーフエンジニア
日本の家電業界に旋風を巻き起こしたダイソン。プロダクト開発の指揮を執ってきたのが、創業者のダイソンさん。イギリス王立美術大学で工業デザインとエンジニアリングを学び、独立。挑んだのが、遠心分離技術の開発だった。しかし、5000台以上の試作品を作るなど、開発は失敗続きだった。
「うまくいかないことばかりなんです。でも、だからこそ、どうすれば改良できるか、を考える。思えば、私の人生は失敗の連続でした。失敗ばかりだったんです。でも、失敗というのは面白くて、学ぶことができるんですね」
成功からは、人は学べない。
「私は不可能を可能にしたいんです。そうすると、失敗はもう当たり前なんです」
『夢と志は違う。それはもう衝撃でした。』
── 孫 正義 ソフトバンクグループ会長兼社長
人生のテーマを何か書いてほしい、と言われると唯一書く言葉が”志高く”。この言葉の意味を教わったのが、恩師で経営学者の野田一夫さんだった。創業間もない頃、”夢”と”志”の違いを聞かれてドキッとした。
「”夢”というのは、漠然とした個人の願望だ。でも、その個々人の願望をはるかに超えて、多くの人々の夢、多くの人々の願望をかなえてやろうじゃないかという気概を“志”というんだ。夢は快い願望だが、志は厳しい未来への挑戦だ。だから”志”と”夢”ではまったく次元が違うぞ。”夢”を追うなんて程度の男になってはいかん。”志”を高く持て」
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