名門「オンキヨー」筋の悪い増資で迎えた末路 万策尽きて上場廃止の回避ならず

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もう「特権」は使えない

しかし、第11回と第12回の商品性を考えれば、EVOの権利行使(資金拠出)を期待することが間違いだった。

第11回と第12回の新株予約権を行使して得られるのは普通株に転換できない優先株である。つまり、市場での取引を通じてEVOは儲けを出すことができない。優先株ではイグジット(売却)も難しく、オンキヨーの財務状況を考えれば焦げつくリスクが高い。

オンキヨーが権利行使に動かなかったEVOに文句を言うのはお門違いだろう。もともとEVOに引き受けてもらっていたのは悪名高い金融商品ばかりだ。記者は幾度となくオンキヨー側に既存株主が割を食う筋悪の増資であると指摘したが、「背に腹は代えられない」と居直っていた。

MSCB、MSワラント、MS新株、有利発行、DES――。あらゆる手法で資本増強を繰り返した結果、発行済み株数は膨れ上がった。

2016年3月末の8130万株から2021年3月末には3億8276万株に増加。2020年に株式併合(5株を1株に)を行っているため、これを考慮すれば株式数は20倍超に膨れ上がった。この間株価は下がり続け、上場廃止が決まった2021年6月末は5円。2016年3月末から100分の1以下になった。

2021年3月末時点で自己資本は24億8500万円のマイナス。現預金は5億円弱に対して、支払い遅延している営業債務が約48億円もある。事業そのものの黒字化もみえない。

ただし、主力のホームAV事業をシャープとアメリカのVOXXグループに33億円で譲渡する予定だ。当初、2021年7月1日付けだった事業譲渡が「7月中」と延びているが、これを実現できれば財務改善が図られる。

引責辞任もなければ、メディアの取材に応じることもないオンキヨーの経営陣。上場している「特権」を最大限活用して行ってきた数々の資金調達に頼れなくなる中、事業を立て直せるのだろうか。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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