出光、「昭和シェル買収」で強者になれるか 独立路線の出光が動き、再編の号砲

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出光興産の月岡隆社長。直近でも自社の時価総額の低さをぼやいていた(撮影:今井康一)

もともと石油会社は各社で連携し、自社の製油所のない地域では融通しあっており、規模拡大による物流費の削減効果も大きくは見込めそうにない。2015年1月からコスモ石油と東燃ゼネラル石油は、千葉県にそれぞれ保有する製油所をパイプラインでつなぎ、生産効率を高める。地理的な重なりがないことから、出光と昭和シェルはこうした取り組みができない。

 2つ目は企業文化の差異だ。出光は創業以来掲げる「大家族主義」で人員削減を行わないことを社是としている。そのため、統合後に人減らしに踏み切るとは考えにくく、重複する本部経費の効率化などが難しい。そして3つ目は買収による財務負担だ。今回の報道を受けて昭和シェルの株価は20%以上も値上がりしており、3000億円後半だった時価総額は4000億円台半ばまで膨らんでいる。出光の時価総額は3000億円前半であり、これだけを見れば”小が大を飲む”買収という言い方もできる。

買収負担の重み

昭和シェルの香藤繁常会長兼グループCEO。出光とどう手を組むか(撮影:今祥雄)

総額5000億円とも言われる買収金額を借入金で賄い、昭和シェル側の負債も取り込めば、現在1兆円ほどある出光の有利子負債は大きく膨張する。出光が2013年に発表した中期経営計画(2013年度~2015年度)の投資総額は4500億円。戦略投資として掲げる3400億円のうち、海外比率が8割を占める。

海外向けはベトナムでの製油所建設や、LNG(液化天然ガス)や上流開発への投資を念頭に置いているが、「(買収が実現すれば)財務体質の大幅悪化は避けられず、買収後に成長投資が実施できる状況にはならない」(JPモルガン証券・西山雄二アナリスト)。

もっとも、統合で規模拡大を図ったJXも苦戦を強いられており、2010年の経営統合以来、3期連続で経常減益。2014年度上期の石油精製事業(在庫評価損益を除く)は赤字だった。需要減退の中で統合に踏み切っても即座に展望が開けるわけではない。出光としても、成長戦略を描くには、国内における一段の合理化が大前提となる。いくつもの課題を乗り切り、JXに迫る強者になれるのか。勝ち残りをかけた覚悟が問われている。  

秦 卓弥 東洋経済 記者

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はた たくや / Takuya Hata

流通、石油、総合商社などの産業担当記者を経て、2016年から『週刊東洋経済』編集部。「ザ・商社 次の一手」、「中国VS.日本 50番勝負」などの大型特集を手掛ける。19年から『会社四季報 プロ500』副編集長。21年から再び『週刊東洋経済』編集部。24年から8年振りの記者職に復帰、現在は自動車・重工業界を担当。アジア、マーケット、エネルギーに関心。

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