『トロン:レガシー』--人間の恐れる人間が作ったシステム《宿輪純一のシネマ経済学》
筆者は、以前は、人間対コンピュータの対立を、“コンピュータ”の暴走としてとらえていたが、最近では、コンピュータの問題ではなく、より普遍的な課題ではないかと感じるようになった。丹念に見ると、そのような映画におけるコンピュータの反乱の原因は、人間にあることもまた多い。この人間が“作り上げたものが暴走する”ということは実際、多数あるのではないか。これは人間の潜在的に持っている恐怖心そのものであり、その表現する手段を変えただけではないか。
さらにはこのシステムといっても“コンピュータ(システム)”のみではなく、城山三郎さんが描くように、戦争中の軍部に代表されるような“組織(システム)”もそうなのではないか。コントロールが利かなくなり分からなくなってくるという点では“市場(マーケット)”もそうではないか。作り上げたものが、複雑化し規模が大きくなればなるほどひとりひとりの人間とは離れていく。本作の中に出てくる父と子の対立もそうかもしれない。
ケヴィンの隠れ家に透明なテーブルや真っ白な暖炉がある魅惑的な異空間となっていた。同じSF映画の最高峰『2001年宇宙の旅』のエンディングの影響を受けている気がする。
もちろん、とてもファッショナブルな映像世界が展開し、前作を見ている映画ファンにとって見ては涙のシーンも多数ある。前作はここまでエモーショナルではないが、セットで見ることもお勧めする。
しゅくわ・じゅんいち
映画評論家・エコノミスト・早稲田大学非常勤講師・ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングスなどに勤務。非常勤講師として、東京大学大学院、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学等で教鞭を執る。財務省・経産省・外務省等研究会委員。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』・『アジア金融システムの経済学』(以上、日本経済新聞社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら