ゴールドマン・サックス 上・下 王国の光と影 チャールズ・エリス著/斎藤聖美訳 ~強さの理由の中に散りばめられた処世訓
本書が描くのは、ゴールドマン・サックスの創業期からブランクファイン現CEOの時代まで、130年余りであるが、その多くは第2次世界大戦以降に焦点が当てられている。
ペン・セントラル鉄道の崩壊、商品取引会社Jアロン買収、欧州進出とマックスウェル事件、金融工学の導入、LTCM事件など、数多くの出来事をカバーしているが、飽きずに読むことができるのは、会社を形作っていった個性溢れる群像の描写によるところが大きい。
1930年から40年近く会社のトップを務めた「中興の祖」シドニー・ワインバーグは、中学中退で、痰壷(たんつぼ)も洗う用務員補助としてゴールドマンでのキャリアをスタートさせた。シドニーの息子で、やはり会社のトップを務めたジョン・ワインバーグは、第2次大戦と朝鮮戦争で従軍し、敗戦後の日本に進駐したときは、白系ロシア人女性が米兵に奉仕する九州の施設を再開する仕事をした。
90年代にトップを務めたジョン・コーザインは、気のいい反面、解雇の申し渡しなど悪い報せを相手に伝えるのが苦手だった。これに対し、次のトップのポールソンは厳格・単刀直入で、解雇する相手に電話して、これは最終的な決定だ、いついつまでに会社を辞めるようにと告げ、月曜日に出す公式発表に何か付け加えることがあるかと尋ねる。
ゴールドマンは、業界内でも「別格」と敬意を払われている最強の投資銀行である。本書を読むと、強さの理由を垣間見ることができる。