格闘家のジム経営は「ラーメン屋」そのものだ プロって何だろう?格闘家・青木真也と語り合った

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青木 ブログに書きましたね。羽生結弦というアスリートには詳しくなかったのですが、あの一件から僕は「イベントに穴をあけないプロ意識」を感じました。「体が資本のスポーツ選手」という正論から、安全性に考慮して出場をやめるという選択肢もあったと思います。

しかしスポーツは、どこまでいっても「ショービジネス」なのです。フィギュアスケートも格闘技も「ショービジネス」の要素があるからこそ成立しています。もし僕がメインのイベントだったら、怪我していても出場します。なぜなら僕が出ないと、イベントが成り立たないからです。

常見 彼は怪我をしても出場することで、競技に勝つか否かとは別に、「羽生結弦が出るイベント」を成立させたのですね。

青木 日本から見れば、あの日は明らかに羽生結弦がメインイベンター。羽生選手が出るからということで、チケットを買った観客、放送の枠を買った放送局、リングのスポンサーとなった日本企業がいるということを彼は分っていたでしょう。だから彼は「興行のプロ」として、怪我をしてもリングに立ったのだと思っています。

対戦相手は「その場で仕事をした人」

常見 そして「興行のプロ」として格闘技をする青木さんは、自分では「何と戦っている」と思いますか。

青木 そうですね…「何かと戦っている」という考えは無いですね。

常見 じゃあ青木選手にとって戦っている対戦相手はどんな存在なのですか。よく格闘技やプロレスを見ていて驚くのは、殴り合いのケンカをして、場合によっては関節を外されたりした後に、選手同士で握手したり、抱き合ったりしていることがありますよね。

青木 いわゆる「河原のケンカ」状態ですよね。僕は試合後、そういう感情にはならないです。試合後に「試合前以上の関係」になったことはないし、逆に離れることもありません。僕にとって、「対戦相手はその場で仕事をした人」という認識です。仕事の相手以上でも、以下でもないのです。

常見 それは仕事をする上で、大切な感覚ですね。私自身は仕事において「冷静と情熱」を両方大事にしています。
もちろん「いつかはベストセラー!」という物書きとしての「情熱」を燃やす一方で、金のためにやっているという「冷静さ」を忘れないようにしています。

青木 僕は試合相手に関しては「冷静な感覚」を持てているので、練習パートナーとも試合できます。お互いに「仕事だね」と割り切った感じで、仕事として試合ができます。

常見 思い出しました!僕も学生プロレス時代にメンバーが少なかったので、新入生歓迎でバチバチの殴り合い、蹴り合いの試合をした後に、そのあと一緒に実況と解説やりましたね(笑)。

青木 冷静と情熱ですね(笑)。

常見 そして格闘技に対して冷静な視点を持った青木さんは、なぜ格闘技をするのですか?

青木 そうですね…それは何が「幸せ」なのかということに繋がっていると思います。

常見 それは「仕事と幸福」の関係性を考える重要な問いだと思います。

青木 遊んで暮らせる状態を想定してやりたいことが、自分の本当にやりたいことであり、幸せにつながっていると考えています。
「もし仮に仕事をしなくても遊んで暮らせるお金があるとして、自分は練習や試合をしないのか?」といえば、僕は「する」と思います。お金があっても、朝起きればマットの上に立つし、誰かと試合をするはずです。これがまさに僕が格闘技をやり続ける「理由」だと思います。

常見 なるほど。格闘技は収入を得るために仕事としてするが、その根底にはお金や対戦相手との関係性を超えて、「自分の幸せ」のために戦うという考えがあるわけですね!でも、それを続けるにはどうすればいいのでしょう・・・。

というわけで、第1回目はここまで。次回は、さらにアスリートを応援する人材ビジネス会社、株式会社アスリートプランニング執行役員の蔭山 尊氏をお招きして、アスリートのセカンドキャリアについて語り合う!乞うご期待! 
常見 陽平 千葉商科大学 准教授、働き方評論家

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つねみ ようへい / Yohei Tsunemi

1974年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。同大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート入社。バンダイ、人材コンサルティング会社を経てフリーランス活動をした後、2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。2020年4月より現職。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など著書多数。

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