青木 加えて「ステータス」としてタニマチになる人が多いと思います。
常見 「俺は若者応援しているぞ!」というステータスですね。今でも地方では自前でプロレス興行を買って、選手に高額の接待をしたりしているそうです。そしてバブルの頃は、スナックで一曲歌うだけで「お店の宣伝になるから!」といって3万円のお小遣いをもらったという話もあります。でもそれは明らかに「健全なお金の稼ぎ方」ではないですね。
青木 小遣いと女でコントロールされるのは「カッコ悪い」し、格闘家として「なめられてる」気がします。
常見 今や海外の試合の方が多い青木さんから見ると、日本の格闘技界のタニマチ文化は独特なものですか。
青木 確かに独特です。プロレスやボクシングを含めた今の日本の格闘技の文化のルーツが、相撲であることから生じている特殊性だと思います。力道山も元力士ですからね。
常見 なるほど、タニマチ文化は相撲から継承されたのですね。ずっと格闘家のお金の稼ぎ方の話をしてきましたが、東洋経済オンライン読者のサラリーマンにとっても「どうフェアに稼いでいくか」というのは、重要なテーマだと思います。
最近は、スタートアップベンチャーのイグジット(事業売却や株式上場など)話がよく有りますが、これ、穿った見方をすると、タニマチ文化だと思うのですねえ。過大に評価されているな、と。音楽ニュースのナタリーをKDDIが買収した件で、私は半分希望を持ち、半分絶望しました。ナタリーは好きなサイトです。しかし、ああいうふうに過大評価されないと生き残れないのかなとも思いました。
青木真也はアスリートではなく個人事業主
常見 そこで青木選手は「アスリート」で生計を立てるということを、どう思っていますか。
青木 実は自分が「アスリート」であるという認識はないです。「個人事業主」という言葉が、一番しっくりときますね。僕のやっている格闘技も「競技」と言い方はせず、あくまでも「イベント・興行」だと思っています。
常見 面白いですね。確かに青木さんのブログやツイッターからは「プロとして興行に出て、そこで勝つ」という思想が伝わってきます。なぜそのような「格闘技観」を持つようになったのでしょうか。
青木 デビュー時に抱いた違和感がきっかけであると思います。僕は「修斗」という格闘技団体から、学生時代にデビューしました。そこで行われる格闘技は、まさに「競技」で、とにかく「勝つこと」が至上命題でした。それは確かに正論なのですが、勝ちにこだわるから試合が「つまらない」。そして試合がイベントとしてつまらないから、選手たちも「食えない」という状況を目の当たりにしました。当時の僕は「これは何がおかしい」と思ったのが、今の格闘技観のルーツだと思います。
常見 なるほど。デビュー時に「競技としての格闘技」に違和感を覚えて、今の「興行としての格闘技」にシフトしたということですね。そういえば、青木選手はブログで、「羽生結弦の脳震盪問題」について、「興行としてのスポーツ」という観点から言及されていましたよね。
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