37歳大阪で農業を営む男が「天職」に辿り着けた訳 フリーライターとの兼業で、したたかにたくましく

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ただ、いきなり生産者になることはできない。

奥さんの祖父が住んでいた家をリフォームしてそこに引っ越すと同時に、自治会の区長さんに定期的な仕事はないか相談に行った。

「植木屋が若い人を探している」

と紹介され、まずは植木屋で働くことになった。

「植木屋ってハサミでチョンチョンと剪定していく作業なのかと思っていました。だけど実際に最初にまかされたのは、生コン車から一輪車でセメントを運び続ける作業でした。作業時間は8時間で、次の日は全身筋肉痛で『もう無理だ!!』ってなりました。

でも親方が植物を好きな人で、いろいろな木のことを教えてもらっているうちに楽しくなりました。木に登っての作業も楽しかったです。ずっと植木屋でやっていこうかと思ったのですが、いろいろあって結局やめました。

約4年前、32歳で完全なフリーランスになりました」

伊藤さんは以前から農業を専門にしたニュースサイトから

「農業ライターとして記事を書いてくれないか?」

と誘われていた。

仕事を辞めたのを契機に、記事を書くことにした。

「自分で企画を考えて、自分で取材に行って、記事にしています。意外と稼げることがわかりましたが、ただライターでの収入って、会社の都合でいつ途絶えるかわからないと思っています。安定感はありません。逆に農業は自分次第で何歳でも稼ぐことができ、安定感があります」

荒れ地だった場所を畑に

運のいいことに伊藤さんの奥さんの祖父の田んぼが、10年ほど前から空き地になっていた。毎年、草刈りをするなど手入れはしていたが、農作物を育ててはいなかった。

「運良く妻のおばあちゃんから土地を借りることはできました。田んぼを畑にして、野菜などを育てることにしました。倉庫にあったトラクターをなおして耕しました。

田んぼから畑にするのはなかなか難しいんです。田んぼは水がたまるようにできてます。山から水が流れてきますから、いつの間にか水がたまってしまいます。そこでスコップで溝を作って、水が流れていくようにしました。それだけで数十日かかりました。

今いちばん欲しいものはユンボ(パワーショベル)ですね。ユンボさえあれば、溝を作るくらいは1日で終わる作業です。

そうやって自分で手を入れていくと、荒れ地だった場所が次第に畑になっていくのがわかって気持ちよかったです。まるで自分で風景を作っているような気がしました。

そしてその畑には、里芋やニンジンなどの野菜、パクチーなどを植えました」

(写真:筆者撮影)
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