円安の進行に「まったく違和感がない」3つの理由 「成熟した債権国」から「債権取り崩し国」へ

拡大
縮小

さらに、FRBもECB(欧州中央銀行)もまずはインフレ抑制を優先し、成長を犠牲にしても、金利を引き上げる方向にある。同じことが日本にできるだろうか。おそらく難しいだろう。行動規制を解除して成長率を復元することすらできない国が利上げに踏み切れるはずがない。

「経済より命」という政治的決断は民主的意思の結果でもあり、筆者は異論を挟むつもりはない。だが、結果として起きていることが低成長・低金利ゆえの円安であることを為政者には分かってもらいたい。

現在、欧米が金融政策の正常化を議論できるのは、2021年に大幅な成長率を実現したという前提があって、減速するだけの「のりしろ」を持っているからだ。1年間の大半を行動規制で過ごした日本とは基礎体力で大きな差があるのだ。

アベノミクス越えの円安

昨年来、筆者は2022年上半期中に120円、2022年中に123円という見通しを掲げてきた。

今のところ、このシナリオどおりに走っているように思う。あえて懸念点を挙げるとすれば、ウクライナ危機とそれに伴う資源高が経常赤字をもたらすという動きは想定外であったため、需給悪化を理由として、さらなる円安方向への修正を検討する余地が出てきているように思う。

年内の上値メドとして2015年6月に付けた高値125.86円も視野に入る。実質実効レートで見ればこの時点を下回ったという、いわゆる「黒田ライン突破」が大きく取り上げられている。が、名目レートでみるとまだ当時と比べれば円高気味だ。しかし、名目でもこれを突破すれば、名実ともに「アベノミクス越えの円安」が2022年のテーマになる。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT