円安の進行に「まったく違和感がない」3つの理由 「成熟した債権国」から「債権取り崩し国」へ

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最も根深い円安要因は、3つめの需給だ。ここでいう需給は短期ではなく、長期的な話だ。

「円」が国際的に安全資産と呼ばれてきた最大の理由は、日本が多額の経常黒字をコンスタントに稼ぎ、結果として「世界最大の対外純資産国」というステータスを保持してきたからだった。

世界最悪の政府債務残高やハイペースで進む少子高齢化、結果としての低成長にもかかわらず、円や日本国債が安定的に推移してきたのは、「鉄壁の需給環境」があったからだ。

近年では貿易黒字こそ失ったものの、それを補って余りある第一次所得収支(主に対外金融債権・債務から生じる利子・配当など)の黒字により経常黒字は高水準を維持できていた。貿易収支ではなく所得収支で稼ぐ。「成熟した債権国」の姿である。

為替の2大論点に変調

しかし、経常黒字と対外純資産という為替を語るうえでの2大論点に、明らかに変調が見られはじめた。

前者に関しては、2022年1月には史上2番目の経常赤字が記録された。資源価格の騰勢による貿易赤字の拡大が理由で、これが止まらないかぎり、状況は大きく変わりそうにない。所得収支で稼ぐ以上に貿易収支の赤字が大きくなるという、「債権取り崩し国」の姿である。

かろうじて経常黒字を確保したとしても、それは第一次所得収支黒字によるもので、貿易赤字が巨額である状況は大きく変わらない。

為替市場において重視されるべきは円の買い切り・売り切りにつながる貿易収支である。貿易収支が黒字ならば、稼いだ外貨を円に転換するため、円が買われる。第一次所得収支黒字は有価証券の利子・配当などが多く、これらは外貨のまま再投資される割合が非常に高いと推測され、「円買い」につながらない。

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