ロシアの「軍事・核戦略」今一つ掴み切れない狙い サイバー・情報戦は主役の軍事力を差し置かない

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では、核兵器の問題についてはどうなるのだろう? プーチン政権は核ミサイル爆撃の可能性をちらつかせたりもしているが、はたしてロシアが本当に核を持ち出す可能性はあるのだろうか?

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この点に関して気になるのは、「エスカレーション抑止」「エスカレーション抑止のためのエスカレーション」と呼ばれる核戦略だ。それは限定的に核を使用することで敵に「加減された損害」を与え、戦闘の継続によるデメリットがメリットを上回ると認識させる。そうやって戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせようとしたりするものだという。

ここではその実態を解説するべく、「スタビリノスチ2009」演習に際して軍事評論家のゴリツが『自由ヨーロッパ・ラジオ(RFE)』ロシア語版のインタビューに答えた内容が引用されている。

著者によれば、民間の(しかも多分に反体制的な)軍事評論家であるゴリツが語るエスカレーション抑止のあり方は、ロシア軍内部における議論の動向とよく合致しているそうなのだ。

その後はこの世の終わり

(前略)戦略的な性格を持つロシアの指揮・参謀部演習は、1999年頃から行われるようになりました。現在まで、それらは全て一つのシナリオの下に行われています。侵略者がロシアの同盟国かロシア自体を攻撃するという想定です。通常戦力は想定的に劣勢であるため、我々は防勢に廻ります。そしてある時点で、我が戦略航空隊がまず、核兵器によるデモンストレーション的な攻撃を仮想敵の人口希薄な地域に行います。我が戦略爆撃機はこれを模擬するために、通常、英国近傍のフェロー諸島の辺りを飛行しています。これでも侵略者を止めることができない場合には、訓練用戦略ミサイルを1発か2発発射します。その後はこの世の終わりですから、計画しても無意味ですね。(268ページより)

「その後はこの世の終わり」などとのんきなことを口にしてほしくないが、いまプーチン氏の頭のなかにあるのは、これに近い考えなのだろうか? ロシアが本当にこうした核戦略を採用しているのかどうかは、いま一つはっきりしないというが、なんとも気になるところではある。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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