ロシアの「軍事・核戦略」今一つ掴み切れない狙い サイバー・情報戦は主役の軍事力を差し置かない

✎ 1〜 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 32 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

では、核兵器の問題についてはどうなるのだろう? プーチン政権は核ミサイル爆撃の可能性をちらつかせたりもしているが、はたしてロシアが本当に核を持ち出す可能性はあるのだろうか?

『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

この点に関して気になるのは、「エスカレーション抑止」「エスカレーション抑止のためのエスカレーション」と呼ばれる核戦略だ。それは限定的に核を使用することで敵に「加減された損害」を与え、戦闘の継続によるデメリットがメリットを上回ると認識させる。そうやって戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせようとしたりするものだという。

ここではその実態を解説するべく、「スタビリノスチ2009」演習に際して軍事評論家のゴリツが『自由ヨーロッパ・ラジオ(RFE)』ロシア語版のインタビューに答えた内容が引用されている。

著者によれば、民間の(しかも多分に反体制的な)軍事評論家であるゴリツが語るエスカレーション抑止のあり方は、ロシア軍内部における議論の動向とよく合致しているそうなのだ。

その後はこの世の終わり

(前略)戦略的な性格を持つロシアの指揮・参謀部演習は、1999年頃から行われるようになりました。現在まで、それらは全て一つのシナリオの下に行われています。侵略者がロシアの同盟国かロシア自体を攻撃するという想定です。通常戦力は想定的に劣勢であるため、我々は防勢に廻ります。そしてある時点で、我が戦略航空隊がまず、核兵器によるデモンストレーション的な攻撃を仮想敵の人口希薄な地域に行います。我が戦略爆撃機はこれを模擬するために、通常、英国近傍のフェロー諸島の辺りを飛行しています。これでも侵略者を止めることができない場合には、訓練用戦略ミサイルを1発か2発発射します。その後はこの世の終わりですから、計画しても無意味ですね。(268ページより)

「その後はこの世の終わり」などとのんきなことを口にしてほしくないが、いまプーチン氏の頭のなかにあるのは、これに近い考えなのだろうか? ロシアが本当にこうした核戦略を採用しているのかどうかは、いま一つはっきりしないというが、なんとも気になるところではある。

印南 敦史 作家、書評家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事