暴力団員の子が置かれた「あまりにも過酷な現実」 暴力団の衰退とその家族の闇、わかりにくい弱者
石井:まさにそうだと思います。一般的な貧困の連鎖に薬物が及ぼす影響が加わるため、負のループは想像を絶するほどのものになります。その連鎖をどうやったら断ち切ることができるのか。薬物や犯罪に取り囲まれた日常から、どうすれば子どもたちを救い出すことができるのか。私は親である暴力団構成員ばかりではなく、その家庭に対しても目を向ける必要があると考えています。今はそうした仕組みはもちろん、発想自体が社会にほとんどないと思います。
「暴力団員の子ども」を放置する社会
開沼:一口に「暴力団員の家庭」と言いますが、何か共通する特性のようなものはあるのでしょうか。
石井:大きく分けて4つあると思います。
1つは「暴力団の行動原理」が家庭の中にまで深く入り込んでいるタイプ。暴力団員の中には暴力で他者を支配することで自らのアイデンティティを築き上げてきたケースも多く、組織内では子分や周辺者を、家庭では妻子を暴力によって支配しようとしがちです。その結果、彼らの家庭には過剰なまでの暴力がはびこることになる。
2つめは、「暴力団員の妻」です。被虐待経験、元不良、薬物依存症、売春、精神疾患といった共通点を持つ人が少なくありません。薬物の密売を生業としている暴力団員の妻たちは特にそうです。逆に言えば、そうしたグレーゾーンにいる女性でなければ暴力団員と接点を持ちえない。また、彼女たちの一部は夫となった暴力団員と似たような境遇で育ってきたため、適切な子育てができなかったりします。
開沼:著書の中にも出てきますが、男を頻繁に家に連れ込み、育児放棄をするような女性ですね。でも彼女たちの中では、それが「普通」のことでもあるわけですね。
石井:まさにそうです。彼女たちも被虐待児だったりするわけですから。そして3つめが、先ほどから話題に上ってきた「覚せい剤をはじめとするドラッグとの関わり」の深さです。暴力団員である父親は薬物をシノギの種とし、自らも使用している。覚せい剤はセックスドラッグとして使用されるため、その妻や愛人も中毒になっているケースが多い。薬物が日常化した家庭は荒み、子どもたちに多大なマイナスの影響を及ぼすのは当然の話です。そして4つめが、「社会からの排除・差別」になります。
開沼:そこは非常に重要なポイントかと思います。具体的にはどんな排除、差別があるのでしょうか。
石井:父親が暴力団員とわかった瞬間、世間はその子どもたちにまで冷たい目を向け、関わろうとしなくなります。違法薬物などの犯罪に手を染めている場合、常に逮捕される危険と隣り合わせであり、父親は母親が逮捕されれば子どもたちの居場所はなくなり、施設や親戚宅をたら回しにされるなど「人生の漂流」がはじまってしまう。
しかし私としては、そのまま暴力団員の家庭で生きていくよりは、そのほうがましだと思っています。暴力団員の家庭の多くは、行政や公的サービスを避ける傾向にあり、親の逮捕でもなければ家庭内の問題が表面化することもなく、なかなかその子どもたちを救い出し、保護する状況にならないからです。
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