暴力団員の子が置かれた「あまりにも過酷な現実」 暴力団の衰退とその家族の闇、わかりにくい弱者

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●石井光太(右)/1977年、東京都生まれ。2005年、『物乞う仏陀』で作家デビュー。 主に事件、文化、社会問題をテーマに執筆活動を行っている。 著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』など多数。『こどもホスピス の奇跡』で新潮ドキュメント賞。 ●開沼博/東京大学大学院准教授・社会学者。1984年生まれ。東京大学卒。同大学院博士課程単位取得。立命館大学准教授などを経て、2021年から現職。近著に『日本の盲点』(PHP研究所)。「漂白される社会=日本」をテーマにフィールドワークを続け、現代日本の闇を追い続ける(撮影:根本直樹)

開沼:なるほど。いわば「弱者に見えない弱者」「わかりにくい弱者」ですからね。自分の意思で暴力団員となった親はともかく、子どもに罪はない。なのに、「暴力団員の子ども」という偏見から、本来なら社会的に保護されるべき状況に置かれた子どもたちを社会は無視し、排除しているのではないかと。その結果、暴力団員の子どもたちは、一般の家庭からは想像もできないような過酷な日常を生きていくしかない。

石井さんの著書にはその実例が生々しく、説得力を持って描かれていました。それで、今回改めて石井さんが俯瞰して見せた暴力団員の世界のいまの姿の中でもとくに驚いたのは、暴力団員の家庭における薬物問題の深刻さです。以前だったら、さっきも仰っていたように、暴力団員の中でも薬物扱うのは下に見られていた。いたとしても、それはシノギなりヤクザ文化なりの中であくまでワン・オブ・ゼムであったわけです。

ところが石井さんの著書を読むと、貧困、暴力、虐待などあらゆる問題の背後には覚せい剤がある、と思えるほどその存在感。これは、別に恣意的にそこを集めているとかじゃなくて、もうそうなっているんだなという現実がひしひしと伝わってきました。迫力が圧倒的です。

売人の多くは売るだけじゃなく自らも使用者

石井:実際そのとおりだと思います。そもそも暴力団員の力の源泉は暴力です。それがあったからこそ、これまで暴力団は夜の街からみかじめ料を徴収できたし、債権を回収できたし、地上げをすることもできた。ところが先ほど言ったように、社会的な暴力団排除の流れの中でその力はじょじょに抑えこまれていった。その結果、多くの構成員たちが稼ぐ手段として、わりと簡単にできる覚せい剤の密売に頼るようになっていったわけです。

厄介なのは売人の多くは売るだけじゃなく、自らも使用者であること。さらに問題なのは、覚せい剤はセックスの快楽を膨らませる道具として使用されることが一般的なので、売人の妻や愛人、恋人も「中毒」になっている可能性が高い。必然的に覚せい剤は家庭に入り込み、日常化してしまう。そうなると子どもたちは、薬物中毒者の親の異常な行動、言動を日々目の当たりにしながら生きていくことになります。

開沼:そうした環境は、当然、子どもの精神形成、思考、人間関係に多大な影響を及ぼし、親から子へ「負の連鎖」をしていく可能性が高い。世代間の貧困の再生産の問題。これは世間全体で起こっていることですが、石井さんが拾い上げた細かいエピソードをみると、ここに凝縮しているなと感じました。

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