「ドラえもん」が50年以上愛され続ける納得理由 藤子・F・不二雄と立川談志、その意外な共通点
――F先生の生活ギャグ作品はたかだか10ページ前後でしっかり起承転結がついていて、無駄なコマが一切ない。驚異的な構成力だとよく言われますね。
佐藤:僕らが『ドラえもん』TVシリーズの脚本を書くときは、正味8分くらい。長くても12分。ペラ(200字詰め原稿用紙)換算で20枚前後です。その尺に物語をちゃんと入れ込むのがどれだけ大変かは、オリジナル脚本を書くときよりも、原作をリビルド(再構築)するときに痛感しますね。
たとえば、「古い時代に描かれた作品だから、今の子供たちにはここがわかりづらいかも」といった指摘を受けてあるシーンやセリフを外すと、話が成立しなくなっちゃう。
――それほどまでに、原作には無駄なピースがひとつもない。
佐藤:もし外すなら、外した要素に匹敵する別のアイデアを入れなきゃいけないけど、そんなアイデアはそう簡単に思いつかない。つくづく『ドラえもん』のすごさ、F先生の偉大さを感じますね。
F先生はそもそも長編が得意だったかどうか問題
――一方で、大長編ドラえもんと呼ばれる長編についてはどうでしょう。今回の『のび太の宇宙小戦争』を含め、F先生は映画ドラえもんの原作を17本描かれています。
佐藤:それは、F先生はそもそも長編が得意だったかどうか問題、というやつですね。
――F先生が短編の名手であることは間違いないですが、長編があまり得意ではないと解釈できる発言をF先生自身がされてるんですよね。個人的には、17本のうち傑作として名高いのは前半、1980年代の発表作に集中している気がします。
佐藤:それについては僕の中に仮説があるんです。『のび太の宇宙小戦争』は1984年から1985年にかけて連載された作品ですが、それ以前に描かれた『ドラえもん』の短編で試したネタがたくさん詰まってるんです。宇宙から小さな宇宙人がやってきてのび太たちに助けを求めるのは「天井うらの宇宙戦争」(初出『小学四年生』1978年9月号)でやっていますし、のび太たちが特撮を駆使してSF映画を撮るのは「超大作特撮映画『宇宙大魔神』」(初出『小学四年生』1979年11月号)でやっている。
短編で試したアイデアを長編の重厚な世界観に置く。あるいは、実験作の集合体としての長編。この手法って世の中には結構ありますよね。
宮崎駿監督の映画『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)は、それ以前に宮崎監督が演出を手掛けていた『ルパン三世』TV第1シリーズ(1971〜1972年放映)の後半から、いろいろとネタを持ってきています。村上春樹の長編『ねじまき鳥クロニクル』も、短編の『ねじまき鳥と火曜日の女たち』や『加納クレタ』のエピソードが入っています。最近だと、劉慈欣のSF小説『三体』にも、彼がそれまでに発表した短編のアイデアが入れ込まれていました。
短編のアイデアを入れ込んだ大長編ドラえもんはクオリティが高い。それがすごくいいバランスで成り立っていたのが、F先生が短編を描きながら長編を描いていた時期だと思うんですよ。
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