資源大国ロシアへの経済制裁は何をもたらすのか アメリカの株式市場もやはり影響を受けそうだ

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地域で見れば、ロシアからのエネルギー供給への依存度が高い、ドイツなどで経済活動が抑制されるいっぽう、資源インフレに直面することになる。ドイツが拡張的な財政政策を発動するため、経済活動の落ち込みが和らぐ可能性も浮上してはいる。

ただ、長期的に軍事予算を拡大させる歳出が主たる対応になるとみられ、経済の落ち込みが相殺されるほどの政策対応が行われる可能性は高くないと思われる。経済封鎖を受けたロシア経済の縮小が、欧州経済の停滞をもたらし、世界経済の成長を低下させるリスクは無視できない。

一方、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が現在最優先とする政策対応は、高まっているインフレ率を沈静化させることである。アメリカにとっても、ロシアの問題は欧州経済全体が大きく減速することで、世界経済全体に影響をおよぼす経路がある。ただ、資源価格上昇がもたらすインフレを、より警戒せざるをえないとFRBは判断するだろう。

ウクライナ侵攻でFOMCはどうなるのか

ウクライナへの軍事侵攻があるまでは、0.5%の利上げを主張するタカ派のFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)メンバーの意見が優勢となり、そうした議論にジェローム・パウエルFRB議長を含めた執行部が傾く可能性が高い、と筆者は考えてきた。

だが、ロシアへの経済封鎖に自ら踏み出したことで、目先のFRBの政策前提も変わったとみられる。大幅な利上げ開始の可能性は低下しており、3月FOMC(15~16日開催)では0.25%での利上げ開始になりそうである。

一方、原油などの資源市場において予想されるロシアからの供給減少によって、資源価格の上昇が強まることになる。経済成長、インフレの程よい調整を試みるFRBの政策対応の難易度はさらに高まるとみられる。資源価格上昇による実質所得の減少と、FRBの引き締め政策による金融環境のタイト化によって、アメリカ経済の2022年の経済成長率は、潜在成長を下回るペースまで減速するリスクが大きくなっている。

アメリカ株式市場(S&P500種指数)は、2月にウクライナ情勢への懸念からパニック的に急落した後に、2月末時点では1月初旬時点の最高値対比で10%弱下げた水準まで戻しており、やや落ち着く兆しがみられる。だが今後、FRBによる引き締め政策に加えて、ロシア経済の縮小が招く世界の経済活動の減速が、アメリカの株式市場において強く懸念されるとみられる。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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