人口3590人過疎地の園に通う「保育園留学」の凄み 短期滞在者の増加による地域活性化にも期待

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厚沢部町では日本のほかの地域と同じように、少子高齢化が進み、1960年に1万人を超えていた人口が、今年2月には3590人まで減少している。厚沢部町政策推進課係長木口孝志さんによると、「厚沢部町には高校がないため、中学を卒業した子どもたちの多くは町外へ出る。町を出た子どもたちは、ほとんど戻ってこない」と言う。

厚沢部町政策推進課係長木口孝志さん(左)とはぜるの保育士さん(写真:キッチハイク)

2010年には、移住体験や郷土料理教室などのくらし体験を始めたが、60歳以上の利用者ばかりで、移住にはつながらなかった。「移住するとなると、ハードルが高いことはわかっていました。でも、移住体験やくらし体験に代わる施策が見当たらなかった」(木口係長)

そこへ、山本代表が、はぜるの一時預かりを活用して家族で短期滞在にやって来た。滞在期間も終わるころ、山本代表から「移住体験とくらし体験、保育園での一時預かりをパッケージにしたらどうか」と提案されたという。

まずは知ってもらうことが大切

「そもそも、厚沢部町への移住をPRしても、町外の方の多くは厚沢部町を知らない。だからこそ保育園留学で、町を知ってもらうことが大切だと考えました。この町を第2のふるさとだと思ってもらえたら、特産品の取り寄せや町への旅行につながる可能性がある」(木口係長)

しかし、町としては短期滞在を目的とした保育園留学よりも、完全な移住を目的とした「教育移住」のほうが、過疎問題の解決につながるのではないだろうか。

木口氏は、「保育園留学は、直接的には過疎問題の解決につながらない。でも、短期滞在者による経済効果が地域活性化につながれば、地域の人の幸福度が上がる」と考える。

「過疎問題は、人口増加だけが解決策ではない。人口を増やそうとしてすぐに増えればいいですが、問題はそんなに単純ではありません。町を活性化して、地域の人の幸福度を上げることも、過疎問題におけるひとつの解決策だと考えています」(木口係長)

現在、都市部では保育施設や保育士不足が叫ばれているが、全国的に見るとおよそ23万人(2020年度)の保育施設の空き枠がある。人口問題に悩むほかの地域も、今ある保育園や遊休物件を活用すれば、保育園留学の受け入れが可能だ。最後に木口係長はこう話した。

「ほかの地域でも受け入れが始まれば、利用者にとっては留学先の選択肢が広がります。厚沢部町や新たな受け入れ先にとっても、今ある施設を活用しながらたくさんの人に町を知ってもらえます」

子どもにも家族にも、そして地域にも可能性を生む保育園留学。今後どのように発展し、家族のあり方の多様化や地域課題の解決に寄与していくのだろうか。

笠井 ゆかり フリーライター

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かさい ゆかり / Yukari Kasai

1986年生まれ。大阪府出身。神戸大学法学部法律学科卒業。2009年、NHKに入局し、地方局で司法・警察取材を担当。生命保険会社への転職後は、代理店営業やコンプライアンス部門のリスク管理業務に従事。結婚を機にWEB関連会社のライターとなり、2020年からフリーライターとして独立。1児の母。Twitter:@nyagaWEB1

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