「ラヴィット!」低視聴率の沼から脱出できた理由 川島明の「なめられ力」をなめてはいけない

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3つの能力について順番に説明していこう。まずは「大喜利力」である。川島は、大喜利で面白い答えを返すことにかけては、お笑い界でも有数の実力者である。芸人になる前の中学時代にはハガキ職人として雑誌の読者投稿コーナーなどにネタを投稿していた。そのときから鍛え抜かれた大喜利力の高さには定評があり、大喜利番組『IPPONグランプリ』では優勝経験もある。

自身のInstagramでは、芸人の顔写真を題材にして、その見た目に合ったフレーズを列挙する「ハッシュタグ大喜利」を行っていた。これはのちにまとめられて書籍『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)として刊行された。

そんな大喜利の達人である川島がMCを務めているだけあって、『ラヴィット!』は大喜利を軸にして作られているようなところがある。あらゆる話題や企画が「お題」として与えられていて、ゲストの芸人やタレントがそれにどう答えを返すか、というのが試されている。

川島の「なめられ力」をなめてはいけない

しかし、その構造がゲストに余計な緊張感を与えたりすることはない。なぜなら、川島には「なめられ力」があるからだ。「なめられている」というのはインタビューで本人が話していたことでもある。

明石家さんま、ダウンタウンといった川島よりも格上の先輩芸人の番組では背筋を伸ばして気を張っている若手芸人たちが、なぜか『ラヴィット!』ではふざけ倒し、気軽にボケを乱打する。それは自分がなめられているからではないか、と川島は語っていた。

でも、それは決して悪いことではない。実際のところは、なめられているというよりも、信頼されているのだと思う。多少ふざけすぎても川島が軌道修正して面白くしてくれるという絶対的な安心感があるからこそ、後輩芸人がのびのびと振る舞うことができるのだ。

そんな荒れ気味の番組をまとめられるのは、川島に「仕切り力」が備わっているからだ。彼がテレビ業界の中心で本格的に司会者として番組を持ち始めたのは最近のことである。

しかし、それ以前から、川島は番組のワンコーナーで仕切り役を務めたり、「天の声」として声だけで進行役を果たすことがたびたびあった。そのような経験を重ねながら、押し引きをわきまえた仕切り術を身につけていったのだ。

川島は大喜利を得意としているが、自分だけが必死で前に出ようとするタイプではない。むしろ、ほかの人のコメントにフォローを入れたり、補足したりすることで笑いを起こすのを得意としてきたし、本人もそこにやりがいを感じている。そんな彼の仕切り力は、自由なボケが乱れ飛ぶ『ラヴィット!』では最大限に発揮されている。

『ラヴィット!』は、情報番組の皮をかぶった本格派の大喜利番組である。しかし、ディープなお笑いファンだけでなく、幅広い層の視聴者が楽しめる間口の広いつくりになっている。ワイドショーしかなかった朝の時間帯にバラエティー路線の番組を定着させた功績は大きい。今後も底抜けに明るく楽しい番組作りに期待している。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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