『ルイーサ』--アルゼンチンの幸せ《宿輪純一のシネマ経済学》

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この映画は、日本では珍しい南米アルゼンチンの映画である。アルゼンチンは日本から見ると地球の裏側に位置する国であり、距離的には本当に遠い国。筆者は、知らない海外の街並みを歩いたり、見たりするのが好きである。(近々、インドに初めて行くが)、南米にも行ったことがない。

この映画では、そんなアルゼンチンのブエノスアイレスの街並みや地下鉄を見て楽しむこともできる。そのようなことも映画を見る楽しみの一つである。ブエノスアイレスとはスペイン語で「良い(buenos)空気(aires)」の意味とか。以前に『ブエノスアイレス』(原題:春光乍洩/Happy Together)という香港映画の秀作もあった。アルゼンチンは、メキシコやブラジルともに南米で映画製作が盛んな国の一つでもある。
 
 主人公のルイーサ(レオノール・マソン)は人口300万人を超える大都市ブエノスアイレスに住む孤独な中年女性。夫と娘は1975年5月の同じ日に亡くした。その二人が葬られている霊園での電話番と、スター女優の手伝いの二つの仕事を掛け持ちしながら、ブエノスアイレスのアパートで一人ひっそりと、ある意味無味乾燥に暮らしていた。

唯一心を許すペットの猫ティノに死なれ、二つの仕事を何と同時にクビになり、残されたのはなんと20ペソ(約400円)のみ! ティノの埋葬資金すら払えない。いきなりどん底になってしまう。

ひとまずティノを冷凍庫に入れて、埋葬費用を得るために地下鉄で小銭を稼ごうとする。そこでオラシオ(ジャン・ピエール・レゲラス)という男と知り合って、身体障害者に扮したり、いろいろアイデアを凝らす。

突然何もなくなって、まさに人生のどん底に落とされる。でも、立ち直っていこうと頑張る。それは本当は大変なことだが、なぜかルイーザが無味乾燥な安定した生活を送っている時よりも、ささやかな喜びを見出していき、生き生きとしてくるのが不思議だ。そして同時に、感動的でもある。

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