『ルイーサ』--アルゼンチンの幸せ《宿輪純一のシネマ経済学》

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 生き方を考えさせる。ある意味、お金持ちであることよりも、貧しくても、ささやかでも、心を開いて暮らすほうが幸せであるというメッセージも感じる。オラシオと一緒に食べる安いパンのシーンは、筆者には本当においしそうと感じた。もしブエノスアイレスに行ったらその店にもぜひ行ってみたい(筆者はB・C級グルメファンである)。

このアルゼンチンであるが、2回の世界大戦に参戦しなかったこともあり、かつては非常に富裕な国でもあった。ブエノスアイレスは、昔は「南米のパリ」と呼ばれていた。だが1988年にはハイパー・インフレーション(非常に高率なインフレ)にもなり、その後2001年には国がデフォルト(対外債務の支払い停止)、そして、通貨危機にも陥った。97年からのアジア通貨危機の教訓は生かされなかったようである。

アルゼンチンはウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ等からなる南米の関税同盟地域「メルコスール」の加盟国でもある。現在、ブラジルがBRICsの一つとして投資の中心となり、日本をはじめとした大量の資金が流入し、ブラジルの通貨は高騰した。通貨高による輸出競争力の低下から、ブラジルの財務相は「通貨戦争のただ中にある」とまでコメントした。

アルゼンチンはブラジルの隣国でもあり、経済的な影響を受けることにもなる。すでに最近の新興国ブームの中で、BRICsに続くグループとして注目を浴びてきている。アルゼンチンは牛肉などの農産物のほか、最近は石油や天然ガス等の資源国としても認識されつつある。GDPは日本の1割にも満たないが、2003年以降は8%を超える高度成長が続いていた。世界金融危機の一時的なダメージは受けたが、今後さらに投資先としてブームになるかもしれない。

本作品のオラシオ役のジャン・ピエール・レゲラスは、なんとこれが遺作。人生はいつか終わる。自分の生き方を考えさせられる映画である。公開館が少ないのが少々残念である。

しゅくわ・じゅんいち
映画評論家・エコノミスト・早稲田大学非常勤講師。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングスなどに勤務。非常勤講師として、東京大学大学院、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学等で教鞭を執る。ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。財務省・経産省・外務省等研究会委員。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『アジア金融システムの経済学』(日本経済新聞社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA

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