菅政権の成長戦略はまったく戦略がない--リチャード・カッツ
創造的な破壊 破滅的な破壊
米国の研究によると、ITはしだいにソフトウエア集中型になっている。この分野は日本企業にとって弱い分野である。しかしNTTドコモがソフトウエアの分野で世界をリードできるのに、どうしてほかのIT企業やITユーザーにそれができないのだろうか。
同研究は、よいソフトウエアは最高の能力を持った人材だけでなく、日常的なプログラミングの作成に従事する普通の“コード戦士”が不可欠であると述べている。アメリカは、多くのソフトウエアエンジニアを海外から受け入れることで人材不足を克服してきた。事実、大学の卒業生よりも、毎年移民で入ってくるソフトウエアエンジニアのほうが多い。その一方、日本は移民を制限している。
01年のOECDの研究では、労働者の生産性と資本を結び付けたTFP(全要素生産性)の向上の半分は、自らの技術や生産方式を改善している既存の企業によってもたらされている、と指摘されている。残りの半分は、ほかの生産性の劣る企業からシェアを獲得した生産性の高い企業、生産性の低い企業の倒産、さらに同じ産業分野や異なった産業分野で生産性の低い企業に取って代わった生産性の高い企業によってもたらされている。ダーウィンの進化論と同じように、企業も生没を繰り返す。しかし、日本はOECD加盟国の中で企業の新陳代謝が最も低いのだ。
競争がなければ企業の生産性は高まらない。ところが、日本政府は逆の方向に進もうとしている。2月の経済産業省の「日本の産業を巡る現状と課題」と題する報告書は、直接的ではないが、サムスン電子の成功のカギは韓国国内市場の支配にあったと指摘し、主要産業での企業数減少を求めている。同社は売り上げの90%を海外市場で上げている。キヤノンやトヨタ自動車などの日本のトップ企業と同じように世界市場で最も優れた企業と競争するため、サムスン電子は効率的にならざるをえなかったのである。