菅政権の成長戦略はまったく戦略がない--リチャード・カッツ
日本政府は6月18日に「新成長戦略」を発表し、今年から2020年までの平均成長率を2%にすると公約した。ただ、そのうち0・5%は、現在の不況からの回復によってもたらされる想定だ。したがって実際の目標は不況前のピークから年率で1・5%成長となる。これは過去10年の実績と変わらない。さらに、この目標を達成する戦略がまったくなく、「旅行者数が840万人から2500万人に増える」「20歳から64歳の人口の有職率が75%から80%に増える」といった希望を並べているだけだ。
民主党のビジョンの欠如を象徴しているポイントが一つある。今後10年間、毎年15歳から64歳の人口が1%減少するため、過去10年間と同じ成長を維持するには労働者の生産性を高めなければならない。しかし、民主党の成長戦略では、「生産性の向上は重要かもしれないが、それよりも需要と雇用を増やすことが重要である」と述べられている。現実には需要増と生産性向上は同じくらい重要なのだ。
民主党は、労働力減少を前提に、2%の実質成長を達成するには2%以上の生産性向上が必要だと認識している。ただし、生産性向上のための戦略としては、規制緩和とか、研究開発投資をGDP(国内総生産)の4%に引き上げるとか、ITを活用するとか、あいまいな内容にとどまっている。これは自民党の主張の繰り返しでしかない。
ITが自動的に生産性向上に結び付くというのは幻想だ。日本はすでにITに巨額の資金を投入している。日本のGDPに対する投資(IT投資を含む)の比率はG7で最高の水準に達している。それにもかかわらず、投資の成長への寄与率は最低である。その理由は、制度改革を回避してきた点にある。
04年の内閣府の報告書は、非効率的な企業から効率的な企業への労働者の移動率の低さを指摘している。アメリカの労働者は同じ企業に平均6・6年勤めているのに対して、日本の労働者の平均勤務年数は11・6年にも上る。