少子化社会ではむしろ職場の喪失こそ問題に--『5年後の日本と世界』を書いた田中直毅氏(国際公共政策研究センタ−理事長)に聞く
切れ味鋭く難問をさばく「料理人」の出現は経済問題では無理なのか。新しい現実に対応する経済理論が待たれる中、日本はワーストシナリオさえ現実化しかねないという。何をどうすべきなのか。
──ピーター・ダイヤモンド氏ほか二人が今年のノーベル経済学賞を受賞しました。
労働需要と労働供給のマッチングを無視して公共需要を積み増ししても、雇用増には結び付かないというたぐいの批評がある。雇用問題に対して政府支出でもって対応すればいいというだけでは済まない。マーケットの需給を合わせる機能はもう少し注意深く考えないといけない。マーケットのミスマッチによる非効率の問題をどうやって改善するのか。その重要性に示唆を与えたとすれば、受賞の意味はあるのかもしれない。
失業が多ければ、政府支出を増やせと。アメリカはそうした。だが、ひどい状態になるのをとどめる役回りはあったが、それ以上のものでもない。今、経済政策の担当者は呻吟しているし、経済学者も苦悩している。経済理論のユーザーに回ろうと思っても、当てになる理論がないし、では経済理論を打ち立てようとすれば、それを実体に対して用に立つものに仕上げられないのが現状なのだ。
──切れ味のいい経済理論はないと。
なくても、アジェンダに包丁さばきは利く。包丁さばきというのは優先順位づけ。全体を眺めつつ、どこをどういう優先順位で考え、手をつけるか。一挙に全部やるというわけにはもちろんいかない。一つひとつ、この問題に対してはこれで、しかもこの順序で、という具合にやっていくしかない。
──たとえば日本の5年後を見据えるとすれば、どうですか。
今のまま推移すると、不適格な財政・金融政策が続く中、日本の租税ベースの侵食が進んで、将来の税収見積もりにそうとう大きな下方修正が行われる。このところ雇用・職場の調整が進んでいるが、さらなる調整が進むことになってしまう。