少子化社会ではむしろ職場の喪失こそ問題に--『5年後の日本と世界』を書いた田中直毅氏(国際公共政策研究センタ−理事長)に聞く
少子社会では働く人の数が減るので、労働需給が逼迫すると考える人がいる。少子社会では雇用問題が最大の課題になるのは確かだが、そのとき起きる懸念される現象は、労働に対する過大需要の発生ではなく、むしろ職場の大いなる喪失こそ問題になる可能性がある。そのことに対する危機感が一般に乏しい。
──職場の確保をどんどん進めよということですね。
その際には、日本列島が投資に値すると納得させる材料が極めて重要になってくる。今、日本の輸出のおよそ6割は上位100社でカバーされている。持ち株会社が作られ、そこに複数の会社が入ると想定してくくり直してみると、100社といっても、コアのところはぐっと少ない。30社ぐらいと言っていい。
実際上、日本の輸出はこのコア30社が額にして6割を占める。この30社には、近隣諸国から当地でさらなる展開を、とのお勧めがある。それとともに、本社機能の移転の勧誘も来ていると聞く。コンサルタントが介在しているものも含めれば、コア30社で一度もそういう依頼、打診を受けたことがない会社はないのではないか。
──「日本出国」が現実味を増しているわけです。
そういう中で、日本はたとえばEPA(経済連携協定)の締結も円滑にいかない。これは国内の農業問題、GDPで1%以下の農業を保護するために結べない。韓国はついにEUとのEPAに入る。韓国からの輸出には、やがて関税ゼロになる品目がいくつか生まれる。日本品にはたとえ5%あるいは10%の税率であっても、企業の売上高利益率からいえば決定的な差になる。EPA締結について広く納得させることを歴代政権がサボってきたことで、逆風を浴びる。