半身不随に絶望した男が障害者の為に起業した訳 リハビリ後の社会復帰で知った障害者雇用の過酷

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「障害者雇用のいびつな現実を目の当たりにした僕は、それを解決するために障害者のためのコンサル事業を立ち上げようと、サポートしてくれることになった友人にアドバイスをもらい、1年かけて、企業がペナルティーを避けるために数合わせで雇用するのではない、ちゃんと働く意味のある就職や、仕事も含めたQOLが向上する手助けをするための会社の設立に向けて準備を勧めました。しかも、得意だったITを使って。

まず、日本の身体障害者手帳は上半身何級、下半身何級、しかなく、僕のように右半身マヒというものがないんです。身体障害者の約半数が実は脳血管疾患で右半身か左半身のマヒなんです。そこで、体のいろんな部位、例えば脳、目、口、右腕、左腕、右足、左足など、細かく20カ所以上に分けて障害を文字ではなくイラストで表した障害者特化属性情報の『ブイくん』というキャラクターを作りました。

このブイくんでさまざまな『部位』の障害をイラストで指定し、わかりやすく可視化することができます。さらにこの仕組みとマッチングアルゴリズムをかけ合わせることにより、その人の障害に合わせた最適な情報が提供されるというもので、特許も取得しています。精神障害と言った時点で、こいつは人を刺すんじゃないかと思われたり。障害者と言っても身体障害、知的障害、精神障害、発達障害の4つの種類があるのにまったく認知されていません。

それをITで解決できないかなと思って作ったのが『障害者翻訳』です。商標も取りました。これは障害者の個別の症状や、それに対してどのようなケアや対応が必要なのかを伝えるシステムで、就職サイトに『障害者の方はこちら』というページを作ってクラウドサービスに飛んで応募できるものを今、設計段階です。

僕自身が障害者のカテゴリーを経験したうえでのこのシステムになったけど、『それは増本さんの考えであってエビデンスがないじゃん』とよく言われるんですね。だけど、『エビデンスがなかったとしてもよくできている、これを市場に投下するとどえらいことになる』というのはみんな言ってくれるんです。『そうしたら、エビデンスは私たちがつけます』とある医療系の大学が言ってくださって。現在その大学と提携して、きちんとソースが出せる環境が整いつつあります」

障害者就職エージェントもまったくわかっていない

会社は2015年に立ち上げ、現在社員数は6名。障害者雇用に関することと障害者のQOLを向上させること。この2つを軸に活動を続ける。増本さん自身、障害者就職エージェントに登録したがことごとく落とされてしまった。エージェントも障害者のことをまったくわかっていない現実にぶち当たっている。

増本さんの話を聞いて、障害者は社会から抜け落とされていることを実感した。余談だが、増本さんのIQは149もある。身体能力については限界を感じる場面もあるが、考える力、ひらめく力は高いのだ。今後、増本さんがさらに障害者が生きやすい世の中にしてくれることを期待している。

姫野 桂 フリーライター

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ひめの けい / Kei Himeno

1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをしつつヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れる。現在は週刊誌やWebなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好きすぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナ。

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