半身不随に絶望した男が障害者の為に起業した訳 リハビリ後の社会復帰で知った障害者雇用の過酷

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増本氏はITやAIを駆使して障害者のデジタルデバイドを解消、とくに「働くこと」で社会参加する障害者を増やすことに取り組んでいる(撮影:梅谷秀司)

そして、なめらかに会話ができるように後遺症の失語と吃音のリハビリに取り組み、倒れる前の半分くらいの感覚まで戻せたと感じた時期にスーツを新調し、結ぶ必要のない、ループタイのような仕組みの片手でつけられるネクタイをつけて障害者雇用枠で就職するための「就活」を始めた。

そこで彼は想像よりはるかに、障害者の就職が困難である現実を知る。面接を何十社と受けても受からないのだ。障害者になる前は某有名企業の営業企画部で数々のプロジェクトを成功させた経験があることを面接で伝えても落とされる。

障害者雇用で60社も落とされる

「障害者雇用と言っても、ほとんどの会社は障害者のことについてまったくわかっていないんです。例えば発達障害でもADHDやASD、LDなど特性の種類があるのにそれらを知らない。合同面接会に行っても、とりあえず『これやれる?』と聞かれるのみ。僕自身について、例えばどんな障害なのか、どんな業務の経験があるのかといったようなヒアリングをされることは皆無でした。企業が法定雇用率の2.3%をクリアしないとペナルティーが与えられるのを避けるために、とりあえず『働けそうな』障害者の頭数をなんとなく『そろえるだけ』の場所、という世界でした」

何とかアルバイトでの障害者雇用に採用されたが、会社に行ってデスクに座っていても何も言われない。仕事を与えられないのだ。そこで、上司に「何をすればいいですか?」と聞くも「君は何もしなくて座ってればいいから」と言われてしまった。障害者になったとしても自分は働くことができる、経験やナレッジを生かして会社に貢献ができると当たり前のように思っていたのに、そうは扱われないことに悩んだが、バイトを辞めるにしても最後に一泡吹かせてやりたいと、昔勤めていた会社でお世話になっていた知人に相談しに行った。

すると、「僕は君のスペックを知っているから君に仕事を与えてあげよう。絶対できるから」と言われ、アルバイトの身ながら5つの案件で4200万円の受注をもらうことができた。そして、ちょうどこの時期に、長い間連絡を取っていなかった昔の友人と再会する機会があり、自分の現状と将来やりたいことについて話すと「俺、手伝うわ!」と起業をサポートしてくれることになった。4200万円の案件を会社に持っていくと、口には出さないものの明らかに「え? 障害者雇用のアルバイトがなんで?」と困惑気味な雰囲気になったので、少しだけ気持ちが晴れた。

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