婚姻数急減「人と会えなかった2年」の深刻な影響 失われた11万組の埋め合わせなければ出生数減も

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しかしながら、2021年11月までの出生数は、タイミング的にコロナ禍による婚姻数減少の影響をまだあまり反映していないと考えられる。上で述べたように、コロナ禍の2年間では約11万組の婚姻が失われた。出生動向基本調査によれば、夫婦がもうける子供の数は平均1.95人である。この数字が大きく増加する可能性は低いであろう。

今後、婚姻数がリバウンドしてトレンドを上回り、失われた婚姻を埋め合わせることができなければ、中長期的には失われた婚姻約11万組は「約21万人の失われた出生」につながる。

少子化への影響抑制に向けた2つの戦略

婚姻・出生データから見えてくるコロナ危機の中長期的な少子化への影響を抑制することを目指すならば、大きく分けて2つの戦略がある。

1つは、今後も感染の波が起きるたびに行動制限政策を打ち出すことを所与として、そのダメージをさまざまな少子化対策によって抑制することを目指す戦略である。この戦略のメリットは、感染リスクに対する危機意識の強い日本社会で受け入れられやすいという点である。この戦略のリスクは、そういった少子化対策の効果が限定的であるかもしれないことである。

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もう1つは、さまざまな少子化対策をとってもこのような副作用は完全には相殺できない可能性を考慮して、今後感染の波が起きた際に打ち出す行動制限の度合いを抑制するという戦略である。この戦略のメリットは、婚姻・出生が減少している重要要素が出会いの減少・経済的不安であるとしたら、そういった要素の影響を根本的に対処することである。この戦略の弱い点は、どのくらいの感染リスクを許容するかに関しては個人によって多様であり、大きな感染リスクを許容できない人々も日本社会に多数いることである。

両方の戦略を取るか、どちらか1つの戦略を取るか、どちらの戦略も取らないかに関しては、さまざまな意見があると考えられる。中長期的な視点、大局的な視点からコロナ危機をどのように収束させたいかを考える際に、この論考が読者の皆さまの参考になれば幸いである。

仲田 泰祐 東京大学大学院経済学研究科 准教授

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なかた たいすけ / Taisuke Nakata

米連邦準備理事会(FRB)の主任エコノミストを務めた金融政策とマクロ経済のプロフェッショナル。2020年に日本に活動拠点を移した後、新型コロナの感染と経済影響に関する試算で注目を集める。1980年生まれ、2003年シカゴ大学経済学部卒業。カンザスシティ連銀調査部からキャリアを始め、12年にニューヨーク大博士(経済学)。「社会に役立つ分析」を掲げる実践派経済学者の代表選手。

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千葉 安佐子 東京財団政策研究所 博士研究員、政策研究ポスト・ドクトラル・フェロー

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ちば あさこ / Asako Chiba

東京大学工学部・同大学院工学系研究科卒業後、みずほ証券株式会社・みずほ信託銀行株式会社に勤務(リスク統括部など)。東京大学大学院経済学研究科(博士(経済学)・修士)。2016年日本学術振興会特別研究員(DC1)。東京大学経済学部附属日本経済国際共同研究センターを経て、2020年5月より東京財団政策研究所に勤務。

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