その背景には、2018年頃から韓国社会で広がった「脱コルセット運動」がある。脱コルセット運動とは、女性が社会から求められる「女性らしさ」を拒否する女性中心のフェミニスト運動である。一部の女性は、髪を短く切った写真をSNSに投稿することで自身は脱コルセット運動に賛同していることを示した。この運動により「短髪=フェミニスト」という認識が男性の間で共有されるようになったとみられる。
ネットコミュニティで活動する20代の男性らは、短い髪だけではなく、アン選手が女子大学に通っていることや、過去に男性を嫌悪するような言葉を使ったことがあると主張し、「フェミニストであるアン選手の金メダルを剥奪すべきた」と同選手に対する攻撃を続けた。さらに、保守系最大野党の若手政治家がアン選手に対する一連の攻撃を擁護するような発言をするなど、政治にも男女対立を煽るような動きが見られた。
一方、こうした「行きすぎた攻撃」にも批判が殺到した。ある有名女優はショートヘアの自分の写真をSNSに投稿し、一連の動きに対する反対の声を上げた。また、韓国アーチェリー協会のホームページには「アン選手を守れ」などの投稿が相次いだ。
女性政策を総括している「女性家族部(省)」は、「いかなる状況においても女性を嫌悪する表現や女性の人権を侵害する行為はあってはならない」とのコメントを発表。さらに、文在寅大統領はアン選手に送ったお祝いのメッセージで「ときには行きすぎた期待と差別に立ち向かい戦わないといけない」とアン選手に対する攻撃を批判した。
大統領選でも存在感を増す「イデナム」
アン選手をめぐる「フェミニスト」論争は、韓国社会に「反フェミニズム」傾向の20代男性集団が潜在していることを見せつけたのである。
3月9日に行われる韓国の次期大統領選においても反フェミニズム傾向の20代の男性、「イデナム」が存在感を増している。
残り1カ月を切った大統領選は熱を浴びている。大統領選を取材するメディア関係者には、候補が新しく打ち出した公約や相手候補を批判する声明など、詳細な説明を加えた大量の報道資料が届く。そんなある日、最大保守系野党の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補のSNSにたった7文字の公約が投稿された。「女性家族部(省)廃止」と。
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