オードリー・タンが本の文脈を即理解できる秘訣 他人との対話もすべて「読む」素材である
文章や資料を読むときも同じです。例えば数百ページにも及ぶ分厚い本なら、作者の話の流れに横やりを入れずに最初の200ページを一気に読んでしまい、それから改めて要点を考察します。最初の20ページの段階で早々と判断を下すという行為は、本の内容をインプットするリズムを止めるに等しいからです。
結果として、21ページ目や22ページ目をめくったときにあなたはもう、20ページ目の時点でできあがった固定観念によってそこから先の内容を理解しようとするでしょう。そうなると要点をつかむのは難しくなります。それは最初の20ページから得た印象によって、その後に下す判断が決定づけられてしまうからです。これを「アンカリング効果(先に与えられた数字や情報〈アンカー〉によって、その後の判断や行動に影響が及ぼされるという現象を表す用語)」といいます。
例えばあなたがある本を読み終える前に、あれはこういう意味だとか先回りして判断したら、たいていそれはあなたが「脳内補完」した、あなたがもともと持っていた考えであって、執筆者の考えではないのです。多くの人は本を読む際、執筆者に話をさせずに自分の頭の中の声と対話しているのです。
そもそも数百ページもある本の最初の20ページに目を通しただけで、筆者の言いたいことを理解できるものでしょうか。自分の思い込みで性急に判断を下すのは避けるべきです。先入観は捨てて、まずは最低でも半分は読んでみましょう。要点をつかめるようになるのはそのあとです。せめてそれくらい読まなければ、筆者の頭の中にある設計の完全性を把握することはできないからです。要点の理解は、これを境に簡単になります。判断を急がないこと。これがいちばん重要です。
見開き2ページを2秒で読む
私は今ほとんどの本を、タブレット端末とタッチペンを使用してデジタル形式で読んでいます。紙の本しかない場合も自動スキャナーでページをスキャンし、全文検索できるようにOCR(光学式文字読み取り装置、Optical Character Recognition:画像化された文字をコンピューターが識別可能な電子記号に変換するもの)を使ってデジタルファイルに変換しています。
最近読んだ約400ページの『The Routledge Handbook of Epistemic Injustice(未邦訳)』でしたら、画面に同時に表示される左右の見開きページを私が読み取るのに2秒かかりますから2秒×200回で400秒、つまりこの本を読み取る所要時間は10分以下です。ですから、性急に判断を下すことなく一気に200ページ読むことは可能なのです。
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