2020年1月31日にイギリスはEUを正式に離脱しました。実は、1975年にもEUの前身である欧州共同体ECの残留をかけて国民投票を行っています。3つ目の事例は、この投票の数日前にユニオンで行われた、残留の是非を問うディベートです。
このとき、学生時代ユニオンの代表として活躍し、イギリス首相を務めたヒースが、現役政治家としてディベートに戻ってきます。彼は、学生時代にユニオンに来たチャーチルとの討議を通して、イギリスは欧州とともにあるべきだと確信します。その目標を達成するために政治家を目指し、保守党のリーダーになりました。そして1973年に首相としてディベートで議会を説得し、欧州共同体への加盟を実現させていたのです。
ところがこの後、労働党を中心にイギリスは独自の道を行くべきだという意見が強くなります。世論に押される形で、1975年の国民投票が行われることになったのです。
1975年、ヒースも登壇したユニオンのディベートもテレビ中継され、結果は493対92で「残留すべき」となりました。
この放映によって、態度を保留していた人々も影響を受けたと言われています。結果的に、国民投票で欧州共同体への残留が可決され、2020年までEUの加盟国として参加を続けていたのです。
今のリーダーがディベートで未来のリーダーを育てる
この3つの例が示すように、学生が主催するユニオンのディベートは、社会の問題と大きくかかわりを持ち、今でも発展を続けています。「平和運動」「人種差別」「外交問題」、これらは現代も重要な課題です。ユニオンでは政治、経済、アカデミックの第一人者が招かれ、世の中の課題について、志の高い学生と真剣に討議を行います。
つまり、今の当事者であるリーダーと、次の世代のリーダーが言葉を使って「論争」します。目的は、未来を担う若者が、現状の課題や困難を把握し、「何を」「どのように」変えるべきか深く考え、認識することです。やがて彼らは、実社会で経験を積み、準備ができたら、課題の解決に全力を尽くします。ここで紹介した3人の学生リーダーのように、歴史を、少しでもいい方向に向かわせるために。
次回は、なぜディベートが重要なリーダー育成方法なのか、より詳しく紹介します。ギリシア時代から続く、言葉を使って課題を把握し、言葉を使って問題を解決していく欧米の伝統と、交渉のためのコミュニケーション戦略を見ていきます。
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