金融市場はグローバルに連動しているが、日本株市場だけを見ているメディアは、足元の日本株市場の調整や円高について、センセーショナルに伝える。そして、往々にして「株価下落はアベノミクスの失敗である」などと、的外れな解説までおまけして加わるのだが、この「おまけ解説」も、2013年以降度々繰り返されてきたことだ。
「円安で倒産急増」記事の、見出しと中身のギャップ
アベノミクスへの批判が高まりやすい状況の中で、「円安の行き過ぎ」に対するさまざまな見方がメディアを賑わすようになっている。原材料やガソリンなどのコスト増に直面する企業・家計が増える中で、円安をもたらしてきた日本銀行の金融緩和に対して未だ懐疑的な識者が、ここぞとばかり批判の声を強めている。
10月6日のコラム「デフレは、若者世代への『経済的虐待』である」でも紹介したが、「金融緩和によって、スムーズに日本経済がデフレから抜け出し失業率が下がり続けると都合が良くない」という理由で、インフレ到来を防ぎたい人々が、メディアやメディアの周辺には少なからず存在している。こうしたバイアスをもった人々が、円安や金融緩和の害悪を大げさに掻き立てようと特に必死になっているようだ。
例えば、民間信用機関の東京商工リサーチが企業の倒産件数を毎月発表しているが、10月初旬に流れた9月分の倒産件数に関する「伝え方」はその典型だ。具体的には、「円安倒産が急増」などと記事のヘッドラインで誇張されて伝えられるのだが、ヘッドラインだけみると、円安のせいで企業倒産が大きく増えて深刻な事態が訪れているような印象をうける。
だが、よく記事の中身をみると、「9月の全体の倒産件数は、23年ぶりの少なさだった昨年9月とほぼ同じ水準」などと書いてあったりする。つまり、企業倒産の数は全体としては抑制されたままであり、円安を理由に倒産した企業がごく僅かに増えた、というのが正確な状況である。
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