アパレル入社2カ月で「退社決意」男性が得た物 業界の未来に絶望した彼が服に救われるまで

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「一度は見切りをつけたアパレル業界でしたが、オーダーメイドという形なら在庫などの無駄も出ないし、こだわり抜いて10年後も大切に使ってもらえる服をつくることができると考えたんです。オーダーメイドは、僕がアパレル業界で感じていたモヤモヤを解消できる手段でした」

小規模ながらも副業的に始めた仕事が軌道に乗ってきたこの1年で、村上さんの心境には大きな変化が生まれたという。

「自分を表現できる居場所や心の拠り所が新しくできたことで、他人と自分を比べてむやみに落ち込むことはずいぶん減りました。自分の美意識を詰め込んだものを、お金を出して買ってくれる人がいるのが嬉しいんです。

もちろん、今も本業の仕事はもっと頑張らないといけないと思っていますが、変に周りのビジネスエリートたちと真正面から競う必要がなくなったというか。言葉で表現するのがあまり得意ではない僕にとって、洋服づくりはかけがえのない自分の表現手段になっています。『美意識は、他のエリートたちにはないものだろ』という感覚があるんですよね」

一度離れたアパレルが、彼に自信を取り戻させた……人生とは不思議なものである。

また、オーダーメイドアパレルの仕事で確かな手応えを得たことで、恋愛面でも進展が訪れた。一度は別れた交際相手と、約1年の空白期間を経て、昨年の秋に結婚を前提に復縁したのだ。

「復縁は自分から持ちかけました。『なんであんなに嫌がっていたのに1年経って結婚したくなったの? 信用できん』と、かなり疑われましたけど……。でも、僕としてはきちんと向き合っているつもりで、先日も相手のお兄さんに会ってきたんです。今は結婚観も変わり、将来に対して少し楽観的になれたし、『どうにかなる』と思えるだけの度胸がつきました」

洋服を通じて自分の美意識や思いを表現し、そこに共感を寄せてくれる人たちと接するなかで得られる充実感と自信。それは村上さんを際限のない競争やスペック意識、劣等感から解放するのに十分すぎる威力を発揮したようだ。

「売り込みで交流会などに積極的に足を運んでも、思うようにいかず悩んでいたこともありました。自分で勝手にできるもんだと思っていたんですけど、ようやく自分の苦手を受け入れられた気がします。無理してきた自分を素直に認めることができてからは、肩の荷がおりてすごく楽になりましたね」

余計なプライドを捨てることで自分の人生観・仕事観がクリアになることもある。今を生きるアラサーにとっては、何かを選び取ることよりも、捨てるべき選択肢や諦めるべき自分の可能性を見定めることのほうが、ずっと深い自己理解が必要で難しいことなのかもしれない。

本連載では、お話を聞かせていただける「クォーター・ライフ・クライシス」(QLC)を経験した方を募集しています。アラサーの筆者・編集者がインタビューさせていただきます。ご応募はこちらのフォームからお願いします。
伊藤 綾 フリーライター

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いとう・りょう / RYO ITO

1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュースなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催 @tsuitachiii

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