このような感覚を抱いた一方で、村上さんは自身の仕事の待遇面についても強く意識するようになった。
「就職して間もない頃、とても魅力的な女性と知り合いました。親が医者で、その人自身も慶応大学卒で、大手企業でバリバリ稼いでいるような人で……女性として魅力的に感じる一方で、明らかな敗北感を感じてしまったんです。
今考えてみると、彼女とすごく付き合いたかったというより、『こんな女性と付き合える自分でありたい』という思いが強かったかもしれません。そんな気持ちを重ねるうちに、嫌な言い方ですが、『今の仕事は、高い学費払って大学を出た自分がやることなのか?』と疑問に思うこともありました」
中年の危機(ミッドライフ・クライシス)という概念がある。中年期特有の心理的危機を指す言葉で、その背景にあるのは加齢による身体的変化や、親しい人との死別、離婚などによる家族ライフサイクルの変化、職場で感じるさまざまなギャップなどだ。
「このままでいいのか」という不安を抱えている点ではQLCと共通する部分もあると言えるが、一方、QLCは若者ゆえ、恋愛での問題が絡まりやすい傾向がある。気力・体力的にも充実していて選択肢もなまじ多いだけに、迷い方もダイナミックなものになりやすい。村上さんの事例も、その意味で非常に象徴的だ。
「前職ではバイトが足りない店舗で店頭に立つこともあったし、待遇面で大学の同期たちと比べてしまうことも少なくなかったです。当時はつねに焦っていました。
田舎の地元では勉強や運動もできるほうだったので、もともと僕は自分に対する期待が高かったのかもしれません。社会人になっていろんな人と接するうちに、自分の仕事への誇りや自信を失っていきました」
終わりのない焦りと彼女との別れ
QLCに突入していった村上さんだが、そんな事態を指をくわえて眺めていたわけではない。むしろ、真面目な性格ゆえ、さまざまな模索をしていくことになる。
たとえば、英語の勉強。商品の在庫管理や仕入れ業務で海外の工場とやり取りしていた関係で、海外と深く関わる仕事に興味を持つようになり、異業種転職に向けて独学で英語の勉強を開始したのだ。
「民泊アプリ『Airbnb』を使って、外国人旅行者と交流したりしていました。当時は20人以上を自宅に泊めていましたね。いろんな考えに触れて、自分の将来を模索していました」
将来の仕事に役立つ具体的な見通しもないなかで始めた地道な努力だったが、ここで身につけた英語力が評価され、専門商社への転職に成功した。
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