世界が大騒ぎ「ロシアのウクライナ侵攻」その理由 なぜそこまでウクライナに執着するのか

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プーチンのロシアには、ロシア語話者やロシア文化圏に生きる人々を保護するという大義が存在する。この大義に照らしても、ドンバスの自治権を確保することは絶対譲れないラインである。

現在、ロシアの国会であるドゥーマにおいて、ドンバス地域の独立承認についての議論が提起されていることに注意が必要だ。ウクライナ側との合意が困難である以上、ウクライナ東部のドンバス地域を独立させてしまったほうが、扱いが簡単になるとの判断に傾きつつある可能性がある。

その場合には、ロシアがドンバス地域を国家承認し、「人民共和国」との協力関係に基づき、内政干渉ではなく、「国際法に基づき」ウクライナと対峙するというシナリオが現実味を帯びることになる。そうすると、ロシアがウクライナに侵攻したと言えるのか難しい判断となるだろう。

最悪の事態を避けるには

段階的に事態を進めることでNATOやアメリカが武力行使に踏み切るきっかけが曖昧になるのもロシア側の意図である。形だけでも「合法性」を整えて非難をかわそうというのである。このシナリオの場合、ロシアによる大規模な軍事侵攻が発生するよりも、欧米側の対応はより中途半端なものになる危険性がある。

ロシアはいかなる侵攻を行うつもりもないと繰り返し主張している。それはそのとおりだ。軍事侵攻はあまりに大きなリスクを伴うからだ。むしろ、ドンバス地域の独立承認を後押しするなどのソフトな侵攻を検討する可能性が高いのではないか。その意味で、今事態を悪化させないために最も重要なのは、ウクライナ東部の停戦を実現し、情勢を安定化させることである。

1月26日、パリでドイツ、フランス、ロシア及びウクライナの政府高官による四者会談(ノルマンディー・フォーマット)が行われ、ミンスク合意に基づく停戦の実現の重要性が確認され、2週間以内にベルリンで再度協議を行うことでも合意された。

この協議にはアメリカは参加していない。現在、ウクライナ情勢はNATOの戦略とリンクされているが、この問題での米露間の立場は簡単には埋められない。事態のエスカレーションを防ぐためには、まず、ミンスク合意の履行を確保することが最優先事項となっているのである。引き続き、ノルマンディー・フォーマットの推移を注視していく必要がある。

亀山 陽司 著述家、元外交官

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かめやま ようじ / Yoji Kameyama

1980年生まれ。2004年、東京大学教養学部基礎科学科卒業。2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館(2009~2011年)、在ロシア日本大使館(2011~2014年)、ロシア課(2014~2017年)など、約10年間ロシア外交に携わる。2020年に退職し、現在は森林業のかたわら執筆活動に従事する。北海道在住。近著に『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書)、『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)

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