国家安全保障に関してロシアは、よく報じられているとおり、ウクライナのNATO加盟阻止が主たる目的である。隣国ウクライナがロシアの抑止を目的とするNATOに加盟することで、ロシアの安全保障が脅かされるのを防ぎたいということであり、シンプルでわかりやすい論理である。安全保障の観点から見れば、ロシアはウクライナにおける影響力を確保し、自らの勢力圏にとどめようとしていると見える。
しかし、ウクライナがNATOに加盟しようがしまいが、この期に及んでロシアの勢力圏にとどまるとは考え難い。さらに、ウクライナが集団防衛の国際組織であるNATOに加盟することがロシアにとってどの程度の脅威になるかといえば、ロシアが侵略の意図を見せない限り、NATOがロシアを攻撃することはありえない。
実際、ロシアはNATO原加盟国であるフランスやドイツとは良好な関係を築いており、特にドイツとの間では、アメリカやヨーロッパ諸国の懸念に抗してガスパイプライン「ノルドストリーム2」を開通させようとしているほどである。また、ヨーロッパ以外の唯一のNATO加盟国であるトルコとの関係も良好であり、トルコにとってのロシアはアメリカと並んで主要な武器の購入国である。
また、軍事力の大きさで比較しても、ウクライナがロシアにとって大きな脅威になるとは考えられない。ウクライナが兵員約25万、戦車2500台、装甲車両1万1435台、自走砲785基であるのに対し、ロシアは兵員約100万、戦車1万3000台、装甲車両2万7100台、自走砲6540基とされる。
NATOが喉元まで迫ってくる?
それでもロシアがウクライナのNATO加盟を恐れる安全保障上の背景には、ウクライナがロシアとNATO(ポーランドやルーマニア)との間に位置しているという事情がある。
ウクライナが加盟すれば、NATOがロシアの喉元までやってくることになる。ただし、2004年にNATOに加盟したバルトのエストニアやラトビアもまた、ロシアと国境を接しているのである。バルト諸国はロシアにとっての安全保障上の脅威となっているだろうか。必ずしもそうとは言えないだろう。
では、ロシアがウクライナを特別視するもっと重要な理由は何か。それはウクライナとの歴史的・文化的親近性とそれに伴う近親憎悪にあると考えられる。
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