近代国家としてのウクライナ国家は1991年のソ連崩壊後、初めて国家として成立した非常に若い国であるが、歴史的に見れば、ロシアを含む東スラブ民族の発祥の地である。つまり、ロシア人はウクライナを自分たちの一部と感じている。
一方のウクライナ人はロシアではなくウクライナとしてのアイデンティティを持っており、この双方の認識の違いが問題なのである。ロシアによるウクライナへの執着は大きく、ウクライナのロシアへの思いはほとんどないというわけである。この関係を一方的な片思いに例えてもあながち間違いではないだろう。
ウクライナ内でも「分裂」している
ただし、ウクライナもけっして一枚岩ではない。黒海に臨むロシア軍の要衝が置かれるクリミアや、ロシアと接するウクライナ東部のドンバスと呼ばれる地域では、ロシア語話者が大半で、実際にロシアとの親近性を感じているのに対し、首都キエフやポーランドに近い西部地域では、ロシアとの親近性を感じていないどころか、反感を持っている。
特に、西部地域では、かつてソ連の構成国であったにもかかわらず、現在、ウクライナ語しか話せない人々もいる。このウクライナ国内における分断が最大の問題となっている。国内の対立からの内戦が最も大きな犠牲を生むことは歴史が示している。
ご存じのとおり、2014年初めにウクライナでクーデターが起こり、親欧米反露の右派政権が成立したことで、同年3月にロシアはクリミアを「併合」する暴挙に踏み切ったが、同時に親ロシア系が多数を占めるドンバス地域では分離独立の機運が高まった。ウクライナの新政権がドンバス地域とは政治的立場を異にする極右政権と見られたためである。こうしてドンバス一部地域の半独立状態が生まれ、ウクライナ正規軍と分離武装勢力との間で戦闘状態が発生した。
ただ、ロシアはクリミアとは違って、ドンバス地域を「併合」する動きは見せなかった。この地域はクリミアほどの軍事的な価値を持っていないからだ。言ってしまえば、ロシアにとってコストとパフォーマンスが見合わなかったのである。ただし、ロシア軍は陰に陽に武装派勢力を支援してきたし、住民への社会的支援も実施している。ウクライナ政府による社会保障がまったく及んでいないからである。
見方を変えれば、ドンバス地域の住民を保護しているのはロシア政府しかいない。ここに、ドンバス地域とロシア政府との結びつきが一層強まっていく要因がある。
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