「仕事できない」罵倒され続けるシングル母の苦悩 離婚後に「軽度知的障害とADHD」が発覚した

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「シングルマザーになってから非正規でデイサービスに勤めましたが、そこでも問題は起きました。介護はなんとかなっていたけど、浴室のセッティングができなかった。決まりがいろいろあって、利用者によっても違って覚えられなかった。何日かして、さぼっているみたいなことをいわれるようになって。自分も子どもを抱えて生活がかかっていたので、本当になんとかしたかった」

何度いわれても、入浴介助の準備ができない。そんな新人職員に対して、施設内で悪口が飛び交うようになった。同僚たちは苦情を主任や施設長に何度も伝え、人間関係は手に負えないほど悪化した。

「パートのおばさんにすごく嫌味をいわれました。逆パワハラだって。おまえは施設を困らせるためにわざとやっている!って。学生のときと違って子どもを養う責任があるから、頑張ろうとしたけど、なんとか覚えよう頑張ろうと思っても無理で。だから、介護のときが一番きつかった」

そして彼女は病院に行った。

「ADHDと軽度知的障害だって診断されました。人生、ずっとツライことばかりだったけど、そうだったのかって納得しました」

医者には「介護の仕事は難しい。ゆっくり覚えることができる単調な仕事が向いている」と言われた。3年前、工場の検品の現職に落ち着いている。

いま普通に働けているが…

いまの仕事は工場での検品だ。つくられた製品の品質に問題がないかチェックする。いくつか必要な作業を何度も繰り返すことで覚えることができた。いまは怒られたり、怒鳴られたり、人間関係が壊れたりすることなく、普通に働くことができている。

「仕事はできるようになりました。でもコロナで非正規切りみたいなニュースを見るたびに心配になります。将来を考えたらすごく不安になって、悩みすぎてまた鬱になって。いままでの人間関係の悪化とかすべてひっくるめておかしくなっています。いまは薬で落ち着いているけど、死にたい、死にたいってずっと思い込むようになって苦しいです」

両親とは絶縁状態である。孤立していて誰も助けてくれる人はいない。フルで働いているので子どもは夜まで学童か、ひとりで留守番する。仕事はできるようになっても生活はギリギリだ。いまの仕事を失ったら、もう立ち直れそうにない。

自分に向いている仕事を見つけても、奈津美さんの精神的な悪化は続いている。不安定な非正規の仕事を収入源にして、いまのように孤立しながら一人で子育てをしていくのは難しいように感じる。筆者は最後に過保護、過干渉だった両親と復縁することをすすめた。奈津美さんは顔をしかめて、何度も首を横にふっていた。

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中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

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