佐渡島庸平「ヒットを狙って作らない」創作哲学 齋藤太郎×佐渡島庸平のクリエイティブ対談1

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齋藤:「この人はもっと世の中の役に立てるはずだ」という感覚は確実にありましたね。佐渡島さんも作家さんに対して、そういう気持ちが湧き起こることはありますか?

作家と編集者

佐渡島:世の中のため、作家のためというよりは、作家の心と僕の心の中で起きた変化が、再現性のあるものなのかを知りたい感覚に近いかもしれません。作家の心が自身の創作によって変わって、それによって僕の心も変わる。これだけ心が影響を受けたということは、たくさんの人の心にもいい影響が与えられるかもしれない。だからたくさん売りたいと思う。そういう順番で、マーケティングを頑張る感じです。

齋藤:面白い商売ですね。前職の講談社で佐渡島さんみたいなことを考えている人はいるものですか?

佐渡島:ヒットを出したい人が多いような気がしますね。僕は入社当時からヒットへの意欲はあまりなくて。ただ、漫画家の井上雄彦さんをきっかけに興味を持つようにはなりました。井上さんはすごく深いことを考えていて、そこに妥協はしないんだけど、みんなに伝えるためのわかりやすくて面白い表現の仕方についても同じかそれ以上の時間を費やしていて。その様子を見て、僕自身もそういう努力をしてみると面白いかなと思ったんです。

今ももちろん社員がヒットを出せばうれしいし、数字が見える楽しさもあります。だから売り上げを追うこと自体は大賛成だけど、僕自身の時間の使い方としては「創作や表現によって人の思考がどう深まるのか」の部分をよりサポートすることに使いたい。売るほうの努力は会社が存続できる程度でいいかなと思っています。

(構成:天野夏海)

佐渡島 庸平 コルク代表取締役社長CEO/ 編集者

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さどしま ようへい / Youhei Sadoshima

1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社し、『週刊モーニング』編集部に所属。三田紀房『ドラゴン桜』を担当。小山宙哉『宇宙兄弟』のTVアニメ、映画実写化を実現する。伊坂幸太郎、平野啓一郎など小説も担当。2012年、講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社・株式会社コルクを創業。インターネット時代のエンターテインメントのあり方を模索し続けている。

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齋藤 太郎 コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター

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さいとう たろう / Taro Saito

慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える。

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