佐渡島庸平「ヒットを狙って作らない」創作哲学 齋藤太郎×佐渡島庸平のクリエイティブ対談1
佐渡島:それだと小山さんは全然ワクワクしないですね。僕が重視しているのは「小山宙哉がどうやったら飽きずに書き続けられるテーマになるか?」です。初めから誰かに向けたものを作ろうとすると、その人の反応が気になるじゃないですか。褒められてもけなされても、評価を受け取るのは疲れる。だから僕は、世間から隔絶されたところで創作できるテーマを作家と一緒に見つけようとしています。読者の感動は、作家本人が作品を生み出すことで救われたことによる副産物ですから。
齋藤:その割に佐渡島さんの作品はヒットしていますよね。
佐渡島:結局、人は平凡なんですよ。人の悩みは特別なものではなく、深く掘り下げていけばみんなの悩みと通じるんです。ただ、作家が持つ人間的な悩みは平凡であっても、それを表現する力は卓越している必要がある。だから人に伝えるための表現技術は世間を見て磨いたほうがいいけれど、テーマや書くものについて時流を読む必要はない。そこを分けて考えることが超重要です。
残り続けるものを作りたい
佐渡島:一方でCMをはじめ広告クリエイティブは世の中に合わせることが重要ですよね。
齋藤:そうですね。その瞬間に振り向いてもらう、気づくことが大事ですし、初速が重要視されます。出版と違って後世に残りませんからね。広告は消費されてしまうから、自分が数年前に作ったものを忘れそうになることもある。周りの人に5〜10年前のCMを見せても、全然覚えていないわけです。消えていく儚さを感じるし、ずっと続けていると消耗していく。だから最近は企業のミッション・ビジョン・バリューを創る仕事を増やしていて。企業そのものに入ってビジネスの課題を解決するような仕事にやりがいを感じるんです。それは残り続けるものですからね。
佐渡島:出版物もほとんどの作品は10〜20年しか残らないですよ。瀬戸内寂聴さんの本が今も読めるのは最近までご存命だったからで、彼女と同世代で20年前に亡くなった作家の本はほぼ絶版になっています。僕が作っている作品の耐久性も、99.9%は50年にも満たないでしょうね。その中で400〜500年と残る作品は、ごく個人的なものだと思っています。僕らはその可能性があるアイデア出しをしようとしていますね。