佐渡島庸平「ヒットを狙って作らない」創作哲学 齋藤太郎×佐渡島庸平のクリエイティブ対談1

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齋藤:「個人的なものが残る」というのは面白いですね。ミッション・ビジョン・バリューの作成は「企業が生き残り続けるために大事なものは何か」を探すことでもある。各法人の「個」が持っているものを掘り下げていくと、「こうやって儲ける」というノウハウのようなものは当然残らないんですよね。

齋藤太郎(さいとう たろう)/コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター。慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える(撮影:梅谷秀司)

佐渡島:ミッション・ビジョン・バリューは企業が30〜50年生き残るうえで大事そうですけど、一方で僕らが大切だとか、価値があるとか、文化だと言っているものの多くは、実は30〜50年単位のものでしかないんですよ。というのも、僕は「雲孫世代まで跨がる、社会と共創する熟達」をテーマに活動する雲孫財団の評議員をしていて。雲孫とは、自分から数えて9代目の子孫のこと。年数にすると200〜300年後です。世の中を雲孫の切り口で見てみると、ほとんどのことは雲孫していないんですよ。例えば日本でパンを食べる習慣はまだ200年程度のことであり、雲孫していません。

齋藤:動詞で「雲孫してる」って使うのは面白いですね(笑)。200年前はだいたい1800年だから、江戸の末期。芝居を見たり本を読んだりといった習慣は今も残っているから、コンテンツ自体は「雲孫している」と言えそうですね。

佐渡島:そんな思考実験をしながら世の中を見ると、どんなことでも30年間誰かが粘っていると、社会に根ざしたり、大きい影響力を持ち出したりするんですよね。でも、ほとんどの人は「好きだからやっている」と言うことであっても、30年は続きません。ずっと1つのことだけをやっている人はほとんどいない。だから突き詰められるものをどう見つけるかが重要で、そのために僕は作家と打ち合わせをしているんだと思います。

心の変化の再現性を確かめる

佐渡島:僕が齋藤さんの著書で一番印象に残ったのは、大島征夫さんとの関係性でした。「後進の有名CMクリエイターたちを育てた人」である大島さんが定年を迎え、消費されようとしていたことに対して、齋藤さんは「No」を言いたくて起業したんだなと。今の齋藤さんが消費される広告を作り続けることに疑問を抱いて、企業の中の消費されない部分に携わろうとしているのと似たものを感じました。人は何かの役に立つことで幸せを感じるし、社会と接続している感覚があるから、すごい才能を目の前にした時に「この才能が世の中で生かされないのはもったいない」と思う。そんな動物的な感覚があったのかなと感じて、面白かったです。そこに齋藤さんの人柄が表れているとも思いました。

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