ところが、交際が順調に進み、いい手応えを感じ出したときに、ある話を切り出すと必ず交際終了が来た。それは、彼女が抱えている精神疾患。35歳のときに会社の人間関係に悩み、うつ状態に陥り病院に行ったところ、双極性障害だと診断されたのだ。
通院して薬をしっかり飲むようになってからは精神状態が安定し、この10年以上症状は出ていない。ただ、薬は一生飲み続けなければいけないし、飲まないことで再発するかもしれないという不安があるので、薬は手放せなかった。
病気の再発のため薬は手放せない
「交際した人には、いつかはこの話をしなくてはいけないですよね」
婚活を始めたときから、私にそう言っていた。そして、お互いに打ち解けあえたと思ったときに、病気の話を切り出していたようだ。しかし、その直後には決まって交際終了が来るのだった。
そんなことを1年ほど続けているうちに、婚活することにすっかり疲れてしまい、「私は結婚できる人間ではないのかもしれないです。今月を持って休会をしたいです」と言ってきた。
そんなときに、はやと(53歳、仮名)からの申し込みがあった。穏やかに微笑むお写真はいかにも優しそうで、年収も安定している。
「せっかくのお申し込みなので、この方に会って、もしうまくいかなかったら休会。おつきあいに入ったら活動を続けます」
こうしてお見合いし、交際に入った。そして1カ月半が経った頃、「はやとさんと真剣交際に入ろうと思います」という連絡がゆきえからきた。それは、落ち着いていたとても幸せそうな声だった。
「『真剣交際に入りませんか』と言われたので、病気のことを正直に話したんです。そうしたら、はやとさんが『人は生きていれば、いろいろありますよ。これからの人生、何が起こっても、2人で力を合わせれば、なんとかなるんじゃないかな』って言ってくださったんです」
ゆきえとの面談のあと、私は、すぐにはやとの相談室の仲人に電話を入れた。そして、ゆきえのすべてを大きな気持ちで受け入れてくれたことに感謝を述べた。すると、仲人が言った。
「2人が真剣交際に入ることは、こちらも連絡を受けています。彼は、ゆきえさんのすべてを受け入れる覚悟でいますよ。彼だって、いつどんな病気になるかわからない。そんなときはゆきえさんに支えてもらうかもしれない。人生何が起こるかわからないのは、お互いさま。何があっても助け合える夫婦になってほしいですよね」
1カ月半後。はやとは108本のバラとともにゆきえにプロポーズし、ゆきえはそれを喜んで受けた。108本のバラの花言葉は「永遠に」だ。
結婚とは何か? 夫婦とは何か? 学歴や経歴、年収、見た目、健康と、高い理想を掲げながら、パートナー選びをしている人たちに言いたい。理想は掲げるものではない。パートナーと2人で作っていくものなのだ、と。
「私は、決して高望みはしていません。学歴も普通、経歴も普通、年収も普通、見た目も普通、健康も普通。普通の結婚を望んでいるだけです」
そんな声を聞くが、普通の5乗はすでに普通ではない。欠けた部分、弱い部分を補える関係が築けてこそ、運命を共にする結婚なのではないだろうか。
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