1月24日イタリア大統領選に市場が注目するワケ 政治的安定の要であるドラギ首相に退陣のリスク

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ECB総裁時代にはその手腕から「スーパー・マリオ」と呼ばれたドラギ首相(写真:Bloomberg)

76年間で67政権。これは第2次世界大戦後にイタリアが共和制に移行して以来、内閣改造を含めて誕生した政権の数だ。政権の平均存続期間は413日。半分近くの政権は発足から1年未満に退陣している。

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古くはマフィアと政治との結びつき、1990年代に多くの現職議員が摘発された全国的な汚職事件(タンジェントポリ)と政界再編を経験した。近年ではベルルスコーニ元首相による相次ぐ汚職・脱税疑惑と公職追放があり、2018年には反エスタブリッシュメントの新興政党「五つ星運動」と欧州連合(EU)に懐疑的な「同盟」によるポピュリスト政権が誕生している。このように、イタリアでは政治の混乱がしばしば繰り返されてきた。

短命政権と政治の不安定さは、イタリアで構造改革が停滞する一因とされる。世界銀行が発表する2021年の「ビジネス環境調査(Doing Business Survey)」(21年を最後に調査は廃止)によれば、イタリアの「事業環境のしやすさ」は先進7カ国(G7)で最も低い58位、中東欧を含めた欧州諸国内でもルーマニア(55位)やブルガリア(61位)と並んで下位に位置する。そのため金融市場では、イタリアの「政局混乱=改革停滞」と受け止められ、同国の国債利回り上昇(価格の下落)の要因となり、単一通貨ユーロの売り材料となる。

政治不安を払拭したドラギ首相の退陣リスク

こうしたイタリアの政治不安を払拭したのが、2021年2月の政局混乱時に誕生したマリオ・ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が率いる現政権だ。イタリアでは過去にも、タンジェントポリ後に政治が機能不全に陥った際や欧州債務危機で国際的な信用回復が必要となった際に、中央銀行や学者出身の非政治家(テクノクラート)が政権を率いたことがある。

議会の8割強を占める主要政党の幅広い支持を得て誕生したドラギ政権は、新型コロナウイルスの感染予防策を強化したことに加えて、コロナ危機後の経済復興に必要な財政資金を提供する「欧州復興基金」の利用に必要な構造改革に取り組んできた。

そのドラギ首相が2023年6月の議会任期満了を前に早期退陣して、政治的安定が崩れるリスクが浮上している。きっかけは、1月24日の次期大統領の選出投票だ。2月3日に7年の任期を迎えるセルジオ・マッタレッラ大統領は続投の可能性を否定している。その後継大統領の有力候補がドラギ首相であり、大統領に就任するには首相を退任する必要がある。政治危機で請われて首相に就任する以前、ドラギ首相は後継大統領の最有力候補の1人だった。

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