第6波への対応を決定的に誤らない為の政策提言 オミクロン流行を踏まえて採りうる3つの方向性

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現状では、感染拡大抑制は集団免疫獲得の先延ばしの側面が強く、大雑把に言えば累計死亡者数を最終的には必ずしも大幅に増加させずに、経済損失だけは増加する、というロジックが成り立つ。そういった状況では、医療体制を強化して大きな感染の波が来ても患者を診るキャパシティを用意することで、累計死亡者数を最終的には必ずしも増加させずに、そして人々の生活への負の影響を最小化しつつ、感染を収束させることができる(東京大学 藤井大輔・眞智恒平・仲田泰祐「ワクチン接種完了後の世界:コロナ感染と経済の長期見通し」2021年8月31日)。

第3 に、緊急事態宣言がいったん発出されると長期化する可能性が高い。行動制限政策は、短期的にだけではなく中長期的に社会・経済・文化・教育に負の影響を与える。経済損失、失業率の増加、格差の拡大等だけではなく、自殺者数の増加、婚姻数・出生者数の減少など、負の影響は多岐に渡る。

第4に、第5波の経験からして、多くの国民に納得してもらえない可能性がある。第5波では、2021年7月12日に宣言発令後に感染が拡大し、7月後半・8月前半には人流5割削減やロックダウンなしには感染減少は起こらないとさまざまな人々が主張したが、行動制限の追加的な強化を伴わなくても8月後半から感染は急速に減少した。

行動制限の有用性に多くの国民が疑問

そして、感染減少要因に関する分析が十分に国民に提示されていないこともあり、行動制限の有効性について多くの国民が疑問を抱いている。また、重症病床使用率が非常に低い中で強い行動制限をするとなると、その必要性について説得力のある説明を提示するのは容易ではないと考えられる。

B: 「医療逼迫に伴う人々の自主的な行動変容・人々の価値判断」による感染収束

緊急事態宣言などの強い行動規制を発動しなくても、日本では医療逼迫による自主的なリスク回避行動による一定の感染抑制効果が期待できる可能性が高い。実際、過去の日本における研究では、行動規制よりも自主的な行動変容をしていたこと、例えば第5波における感染収束で人流に表れない感染リスクを抑制する行動をとったことが重要であったことが示されている。

前述したように、日本人の価値観が、新型コロナ感染者・死者を減らすために多大な社会経済の犠牲を払うことを許容するというものであれば、より「自発的な行動変容」に期待できると言える。この政策Bの利点は、政策Aと比べて社会経済への負の影響を小さくできるであろうことだ。

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