水野和夫氏「第2の中世は寛容で創造的な社会」 「利益が嘘をついた」とき、「近代」は終焉する

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近代以後は、どのような社会になるのでしょうか(写真:J44109290 / PIXTA)
「神が嘘をついた」とき、中世は終わった。では、中世に変わって登場した近代は、どのように終わるのか。そして近代以後は、どのような社会になるのか。
圧倒的なスケールで「第2の中世」の到来を予見した大著『次なる100年 歴史の危機から学ぶこと』を上梓した水野和夫氏が解説する。

「神が嘘をついた」とき、中世は終わった

近代の萌芽は13世紀にある。13世紀以降の社会は「数字(利益)は嘘をつかない」という前提の上に成り立ってきた。「神は嘘をつかない」という前提で成り立っていた中世キリスト教社会が崩壊していったのは「神が嘘をついた」からであって、人々は来世の天国よりも現世の暮らし向きが年々よくなっていく資本を信じるようになった。そこで、13世紀に教会は利子を認め信者を引き留めた。

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ところが、21世紀になって、「数字は嘘をつかない」という前提が大きく揺らいでいる。現在は13世紀の身分社会以上に所得の不平等が広がっている。

近代社会の象徴であるアメリカでは、1973年をピークに男性(年間フルタイムで働く労働者)の実質所得(中央値)は2019年まで下回っていた。明日はよくなるという期待は半世紀ものあいだ、およそ2世代にわたって裏切られていることになる。ようやく2020年になって1973年の水準を5.1%上回った。

その一方で、ビリオネア(10億ドル長者)の人数も彼らの資産額も増加の一途をたどっている。生活水準が半世紀にわたって上がらないということは、アメリカでは年功序列賃金ではないので、入社時と比べて引退時の生活水準は上がっていないことになる。アメリカではこうした人たちが2982万人もいて、彼らがトランプ前大統領のコア支持層を形成していた。もはや私的な利益はすべての人間を導く主ではないのである。近代理念の敗北が1973年から始まっているのである。

そのトランプが2021年1月20日のバイデン新大統領の就任式には出席せず、ワシントン近郊のアンドルーズ空軍基地で退任式を行った。CNNが2021年1月13日に行った世論調査ではトランプ大統領の支持率は34%まで低下した(トランプ大統領として過去最低の35%を下回った)が、共和党員にかぎると80%に上っていた。

トランプ大統領は退任演説で「何らかのかたちで戻ってくる」といい、4年後の大統領選に出馬する可能性を示唆した。アメリカの分断は一層深まる可能性が高くなり、バイデン大統領とトランプ前大統領が対峙する時代となり、中世カトリック教会の「大分裂」(1378〜1417年)を思い起こさせた。

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