見えない価値「非財務資本」こそが生死を分ける 日本企業がGAFAMの足元にも及ばない真の理由

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サービス産業への移行にうまく適応したのがアメリカの企業だった。

GAFAMを代表とするIT企業群は、ソフトウェアや優秀なエンジニア、働きやすい環境作りなどに積極的に投資し、財務諸表に載らない「非財務資本」をうまく蓄積してきた。

翻って、日本の企業は環境変化への対応や人材への投資を怠ってきた、と言わざるをえない。例えば人材への投資という点では、入社時や昇進時に数日程度の研修を行うことはあっても、従業員のスキルアップにつながるような投資を地道にしてきただろうか。

あるいはDX(デジタルトランスフォーメーション)が近年話題にはなってきたものの、単純な業務の「デジタル化」にとどまっている例は枚挙にいとまがない。インターネットやさらにその先の革新的な技術による新たな事業の創出に結びつくことは稀ではないだろうか。

数字からも日本企業の出遅れ感は明らかだ。PBR(株価純資産倍率)は、倍率が高いほど「非財務資本」が大きいことを表すが、日本企業のPBRは1倍付近で停滞している。アメリカの上場企業平均が約3倍なのに対し、明確に低い水準だ。東証1部でも1000社以上がPBR1倍を下回る、すなわち時価総額が純資産より少ない状態にある。

企業価値を高める秘策とは何か

では企業価値を高めるにはどうすればよいか。いきなり非財務資本を高めよと言われても難しい。ただし、手がかりはある。

例えば、気候変動関連の開示への対応を進めること。足元で国際的な枠組みの策定が進み、4月にスタートするプライム市場の企業には、新たな枠組みでの開示が求められる。開示対応には2つのメリットがある。

まず、こうした開示への要求に積極的に対応すれば、投資家から再評価される可能性があることだ。預かった資産を中長期で安定して運用する責任のある機関投資家にとって気候変動のリスクは大きい。適切な開示を行う企業には、投資家が安心して資金を投じる可能性が高い。

また、新しい開示の枠組みに対応しようとすれば、例えば「2100年に地球全体の気温が産業革命以前と比べて4度上昇するとき、あなたの会社のビジネスにはどのような財務影響がありますか?」といった難しい質問にも、答えていることになる。少なくともそうした問題意識を持ち、取り組んでいる姿勢を投資家に示していると、評価されやすい。

投資家のためだけでなく、自社のためにもなる。こうした新しい開示の枠組みに少しずつでも対応していくことで、中長期で自社のビジネスモデルや戦略を見直すきっかけにもなるというわけだ。

企業価値を巡る考え方は、実体のあるモノをどれだけたくさん抱えているかということから、人材やノウハウ、ブランド、顧客満足度など、数えたり測ったりできない対象へ主眼が移っている。

こうした新しい企業価値の考え方に基づいた開示を行っている企業もある。エーザイ、キリンホールディングス、伊藤忠商事などだ。まずはこうした先行企業の事例から学び、企業価値の向上につなげてほしい。

『週刊東洋経済』1月22日号(1月17日発売)の特集はです。
梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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