信長・秀吉・家康「天下人」の意外な“年収"事情 なぜ徳川家康は“ドケチ"で有名だったのか?

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最後は家康について見ていきましょう。信長と秀吉の二人がこねた“天下餅”を食べた真の勝者・家康ですが、その資金力は信長や秀吉の比ではなかったようです。豊臣家を滅ぼし、その所領を吸収した後の家康の直轄領は400万石にも上りました。その年貢米からの取り分だけでも約67万石=年収1005億円もあったのです。

彼の直轄領内には、豊臣家から没収した日本国内の有名金山・銀山も含まれています。残念ながら金銀の豊富な産出は、家康の孫で3代将軍・家光の時代あたりで途絶えてしまうのですが、家康の頃は違いました。

家康は、有り余る黄金を大量の金塊にして保管させていました。金塊は大判金貨2000枚を溶かした黄金を巨大な分胴の形にまとめたもので、1つあたり300キロ、現代の貨幣価値で60億円相当です。家康は「これらは戦争になった時の軍資金に用いなさい」と命令しており、江戸時代前期の江戸城内にはこの金塊が126個もあったといわれます。いわゆる「徳川埋蔵金伝説」につながる「大法馬金」の逸話ですね。

しかしその後、将軍家の贅沢な生活が出した赤字の補填などに使われていったようで、幕末の慶応年間(1865〜1868)には、金塊は残り1つだけになっていました。おそらく、その最後の1つも幕府が瓦解するまでに使い込まれてしまったのではないか、と筆者は推測します。

要するに、埋蔵金にできるほどのお金は幕末期の幕府には残されていなかったのではないでしょうか。幕府軍が明治新政府軍とまともに戦えず、滅びざるを得なかった理由のひとつは金欠かもしれません。

ドケチで有名だった徳川家康

さて、存命時から家康は吝嗇家、はっきりいえば“ドケチ”として知られていました。家康の直轄領が広いのは、自分の大事な部下にもほとんど土地を分け与えることがなかったからです。秀吉も本当はケチでしたが、ここぞという時には大盤振る舞いを行い、臣下の気持ちをつなぎとめました。秀吉の治世では100万石を超える領地を与えられた者も珍しくはなかったのですが、江戸時代に領地が100万石を超えたのは加賀藩主の前田家だけでした。

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家康がもっとも重用した4人の武将を「徳川四天王」といいますが、その中で「関ヶ原の戦い」以前に10万石以上の領地を家康から与えてもらったのは井伊直政、榊原康政、本多忠勝の3人だけ。江戸幕府が打ち立てられた後も、家康が“身内”に支払いを渋る傾向は続きました。外様である前田家の加賀藩には100万石を許した一方、譜代大名の筆頭とされた井伊家の彦根藩に割り振られたのは30万石だけでした。

いざという時の金遣いほど、その人物の内面を雄弁に語るものはありません。幼少時代、人質になるべく今川家に連れられる最中に家臣に裏切られ、1000貫文(=8000万円)で織田家に「売られた」とされる家康(『三河物語』)。

こうした経験から、「身内にこそ、警戒しなくてはならない」と考えるようになった可能性があります。天下人になった後も、彼を苦しめたであろう孤独に思いを馳せてしまいますね。

堀江 宏樹 作家

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ほりえ ひろき / Hiroki Horie

大ヒットしてシリーズ化された『乙女の日本史』(東京書籍)、『本当は怖い世界史』(三笠書房)のほか、著書多数。雑誌やWEB媒体のコラムも手掛け、恋愛・金銭事情を通じてわかる歴史人物の素顔、スキャンダラスな史実などをユーモアあふれる筆致で紹介してきた。漫画作品の原案・監修協力も行い、近刊には『ラ・マキユーズ ヴェルサイユの化粧師』(KADOKAWA)などがある。

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