「ブランド=高額品」と考える日本人に欠けた視点 コロナ禍で激変した消費者の心のつかみ方
――では、お二人から見て、「ブランド」とはどういうものですか。
大西:ここ何十年と議論されてきましたが、答えは1つではありません。人がそれぞれ、名前や生い立ちや性格、趣味趣向を持つように、各ブランドにも歴史やストーリーがある。そのブランドが何を一番に置いているのかというところにも個性があります。
そして今の時代に欠かせないのが、社会課題の解決のための理念やターゲットを持っているかどうかです。消費者がブランドを買うときのかつての基準は、商品の価値や価格でした。ところが、今はものを買うことによる「社会貢献」も加わっています。商品を売っている企業が社会に貢献している会社だと、自分もそのサプライチェーンに消費者として参加していると実感できるからです。
かつてのブランドは経済合理性がないと成り立たず、社会貢献はその次でしたが、今は社会貢献から入っていきます。
川島:サステナビリティー(持続可能性)や社会貢献というのはバブルの時代からいわれていましたが、今はそうした活動をしていない場合、消費者にすぐバレてしまう。エコロジーに逆行した活動や途上国での労働力搾取などが行われれば、たちどころにニュースになります。成功するブランドはこうした取り組みを地道に行っています。
また、室町時代に創業した和菓子の「とらや」や、180年以上前に馬具工房としてスタートした「エルメス」など、長く愛されるブランドは、つねにイノベーションを起こしてきました。
とらやにしろ、エルメスにしろ、これまで挑戦してきたことがすべて成功していると捉えられがちですが、それは違います。成功に至るまでの過程で、ものすごい数の失敗をしています。それぐらい新しい球を投げないと未来は拓けないということです。
ファッションはイノベーションから生まれた
大西:イノベーションから生まれたものがファッションです。ファッション業界というとアパレルが中心に思われますが、例えば地方で新しい技術を使った農業を始めたということもファッションといえます。つまり今は世の中の社会課題を解決する企業すべてがファッションと呼ばれるべきなのです。
川島:大西さんも伊勢丹にいらっしゃったときには、メンズ売り場のブランドごとの区割りを廃止し、ブランドの垣根を越えた売り場を作るなど、イノベーティブな取り組みをされていましたよね。
大西:いえいえ。私が新宿の伊勢丹にいたころの百貨店は比較的“楽”な立場でして、最先端のことをやればよかった。区割りの廃止は取引先の反発もありましたが、伊勢丹というプラットフォームで考えると、ブランドの垣根はないほうがいい。
一方で、ブランドに意味がないわけではなく、フラットな競争だからブランドが大事になる。お客様には本当にフェアなプラットフォームで商品をご購入いただきたかったんです。
今は最先端のものをやるだけではダメですが、課題を解決しなければならないという意識が、新しいことに挑戦する原動力になります。