観光に高速道「走り放題」が必要なこれだけの理由 渋滞問題を引き起こす要因も距離制にあった

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ドイツとイギリス両国は、乗用車については基本的に無料である(国土交通省は「トラックについては、ドイツは日本と同様に走行距離に比例した距離制料金を採っている」と言うかもしれないが、トラックで旅行する人はほぼいないだろう)。

それに対して日本は、「ターミナル・チャージ」という名称で高速道路に入った瞬間に初乗り料金150円を取るほか、1km当たり24.6円もの高額な料金を徴収している。JR東日本の鉄道料金が1km当たり16.2円にすぎないのに比べて、その約1.5倍とあまりにも高額だ。

自動車で移動する際にはガソリン代が必要になる。さらには高価な車を自分で購入(またはレンタル)し、税金やメンテナンス経費も支払わなければならない。さらには(人によっては楽しい作業かもしれないが)運転という神経を使う作業をしなければならない。

高速道路料金は鉄道料金より5割高い

それに比べて鉄道は、乗りさえすれば寝ていても目的地まで運んでくれる。鉄道料金には、そのための運転手代から燃料費/電気代、車両費用まで一切合切が含まれており、その他の費用は1円も必要ない。自分の車を自分で運転するのにもかかわらず、高速道路料金は、乗るだけでいい鉄道料金より5割も高いのだ。

日・独・英の自動車保有台数は、いずれも1000人あたり600台前後。また、3カ国の幹線道路延長も日本が6万2432km、ドイツ5万2700km、イギリス5万2706kmと、差はそこまで大きくない。しかし、オーナードライバーの年間平均走行距離をみてみると、日本が7073km、ドイツ1万3500km、イギリス1万2640kmと、前述した3カ国の国内旅行消費額の差異と極めて近くなる。

単純な祝休日数でみると、日本が年間26日で、ドイツ39日、イギリス37日と差がある。しかし日本には両国にない、お盆や年末年始など「祝日以外に企業が従業員に与える有給休暇」の慣習がある。詳細は割愛するが、鉄道の状況や国土の状況など、他のさまざまな統計データを確認しても、独・英との国内旅行消費額の大きな差は、「遠くへ行くほど高い利用料がかかる」という、高速道路の距離制料金制度が最大の原因だと筆者らは考えている。

たとえ道路の整備が十分であっても、「使い勝手」が悪ければ何にもならない。そして料金とは使い勝手の最たるものである。いくらよいモノでも、価格が高ければ使える人は限られるからだ。

どの地域を走る高速道路でも「1km当たり24.6円」という料金は、一見すると国民みんなが等しく負担しているように思える。だが、消費や移動の中心となる大都市の数は限られる。たとえば東京で考えてみると、首都圏だけで全人口の3分の1以上の4400万人が住み、大学生の定員の40.6%を抱え、日経平均の対象大企業225社の76%が立地している。東京に住んでいる人は地方へ行く必要は少ないが、東京以外の人は東京に来ないと商売しづらく、大学にも行きづらいといえる。

日本人は「遠くへ行くほど高い」現在の料金制度にあまりに慣れすぎて、違和感を持たない人も多いだろうが、この料金制度では当然、東京から離れれば離れるほど、東京へ行くのに高い費用を払わなければならなくなる。

つまり、実質的には住んでいる地域、あるいは本社や工場や農地・漁港が存在する地域によって、格差のある料金制度になってしまう。他国なら時間やガソリン代は距離が離れるほどかかるが、日本だとそこに高速道路料金まで加わり、さらに地域間の格差を広げることになるのだ。

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